〈「いだてん」第14回「新世界」あらすじ〉
オリンピックの戦いを終え、ストックホルムから帰国する四三(中村勘九郎)。元号も明治から大正に移り、四三には人々の空気が変わったように感じられる。報告会で大勢の高師の仲間が四三の健闘を称える中、敗因を問いただす女性が出現。永井道明(杉本哲太)の弟子・二階堂トクヨ(寺島しのぶ)である。永井とトクヨはオリンピックでの敗北を受け、娯楽スポーツではなく強靭(きょうじん)な肉体を作る体育の推進を改めて主張する。同じころ、孝蔵(森山未來)は四三とは逆に旅立とうとしていた。(番組公式HPより)
四三が「パンとチーズと薄いみそ汁でよう走りましたよね? 」と言う。詩だ。
四三がストックホルムに行っている間に、明治天皇が崩御、元号は大正と改められ、乃木大将が自決した。四三が三島邸の厠でサーベルを腰にかざした乃木大将を見かけたのは、もう遠い昔のようだ。嘉納治五郎の留守中に、大日本体育協会のさらなる借金が露呈し、可児徳は窓から飛び降りるも誰も止めるものはいなかった。協会の財務を立て直すべく岸清一が二代目会長となり、いまや永井道明が体育教育界を牛耳っていた。四三のストックホルムでの体験は、堅物の永井には通じない。遠く離れた日本にいた永井にわかるのはただ、四三が棄権敗退したという知らせのみだ。突如登場した永井の弟子、二階堂トクヨははつらつと四三を糾弾する。「敗因は何だと思われますか?」二階堂トクヨははつらつと肋木で腕を伸ばす。はっはっはっはっ。肋木は肺病にいい。はっはっはっはっ。四三の呼吸、すっすっはっはっを否定するように二階堂トクヨははつらつと息を吐く。
年が明けて大正二年、帰国した三島弥彦と浅草十二階にのぼった四三は、帰国後の違和感を口にする。「いつの間にか、何だか… 何だか、その… オリンピック前と後では、日本が… 東京が、まるっきり違ってしまったような気のしませんか? 無論、よか結果ば残せんかったけん、多少の非難は覚悟しておりました。 ばってん… ばってん三島さん、俺たちは精いっぱいやりましたよね? 」
ああ、と応じる三島に、さらに四三はすがるように確かめる。「一回りも二回りも大きか西洋人に交じって、へこたれんで戦いましたよね? パンとチーズと薄いみそ汁でよう走りましたよね? 日の丸とNIPPONのプラカードば持って堂々と歩きましたよね!? あれは…うそじゃなかですよね!? 」
ここだ。TVの字幕には「パンとチーズと薄いみそ汁でよう走りましたよね? 」とある。これを声にするにはどうすればよいか。むろん早口で息せき切って、一気に言っても気持ちは伝わるだろう。けれど、中村勘九郎の声は違った。 こうだ。
「パンとぉ、チーズとぉ、うすーい味噌汁でよ〜走りましたよね?」
「パン」という短い単語のあとに「チーズ」の長音「ー」がくる。そのチーズの長い音を繰り返して勘九郎はさらに「うすーい」と言う。西洋人と日本人の体格を、西洋のチーズに含まれる滋養と日本のうすーい味噌汁の貧しさを対比させるように。
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