能力は「0~100」、やる気は「-100~プラス100」

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性がある。首都圏を襲う大地震も懸念される。
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「口うるさい人」がいないと進まない

 トップダウンということでは2006年のことになりますが、当時の小泉純一郎首相と安倍晋三官房長官の前で、耐震化のプレゼンテーションをする機会がありました。内閣府の中央防災会議の下に設置された「災害被害を軽減する国民運動の推進に関する専門調査会」の中間報告の一環として、耐震化や名古屋での啓発運動を紹介することになったのです。
 私は耐震教材として開発した「ぶるる」シリーズ一式を首相官邸に持ち込み、小泉さんと安倍さんを前に実験をしました。「木造倒壊ぶるる」は木造住宅の筋交いのあるなしで揺れや倒壊の仕方が変わることを示す模型。「パラパラぶるる」はそれをパラパラ漫画の要領で見ることができる冊子。そして「紙ぶるる」は紙を格子状に組み立てて、地震に弱い建物の特徴が分かるペーパーキット教材です。
 小泉さんも安倍さんも、楽しそうに「ぶるる」を揺らしてくれました。このとき、私は超高層ビルの長周期地震動対策も十分ではないことを申し上げました。すると小泉さんは表情を変え、私に向かってこう言います。
「福和さん、あなたは間違っているのではないか。超高層は『揺れるから安全だ』と私は聞いている」
 私は即座に答えました。
「いえ、昔は地震の揺れというのはガタガタ揺れるものだと思われていました。しかし、大きな地震ではゆさゆさと長周期で揺れることが分かってきました。長周期の揺れは今の超高層ビルは苦手なんです」
「本当か?」
 小泉さんは半信半疑な表情で話を聞いてくれました。

 その後10年経って、国が具体的な長周期地震動対策をようやく打ち出してくれました。私たちが長周期地震動についてうるさく言い出し、NHK名古屋で初めて長周期地震動をテーマにした特番をつくってもらったのは2003年。それから数えると実に14年が経って、社会も動き出したことになります。
 言いにくいホンネも言うちょっと「口うるさい」人がいないと、面倒な防災対策は進みません。おせっかいな人が脅したり、すかしたり、褒めたり。人の感情に訴える道具や物語をつくって、ホンキになって伝えることも役に立ちます。時間はかかりますが、言い続けていれば少しずつ実現していきます。
 元総務大臣の増田寛也さんは「地方創生には人が必要」「能力よりは『やる気』と『連携力』が大事」と指摘しています。能力は「ゼロから100まで」しかありませんが、やる気は「マイナス100からプラス100まで」幅があるそうです。やる気のなさは力をそぎますが、やる気があれば苦難を乗り越えられます。やる気のある人たちに連携力を掛け合わせれば、怖いものなしなのです。

地域の「ホームドクター」になるために

 日本の防災は多くの場合、トップダウンで国から都道府県、都道府県から市町村という流れで取り組まれるのが実情です。中央防災会議が南海トラフ地震や首都直下地震の被害想定を出し、地震防災戦略をつくり、災害被害を軽減するための国民運動へと展開していったことは大きな成果でした。
 一方で市町村レベルまで見ていくと、行政が頑張っているところは行政任せになり、住民は動かない。住民が頑張っているところは行政が動かないから、住民だけが頑張り続けることになっています。トップダウンとボトムアップがそれぞれ動き相互補完することが重要ですが、なかなか一筋縄ではいきません。

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次の震災について本当のことを話してみよう。

福和伸夫

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