人から聞いた「ダイジョーブ」は「大丈夫」じゃない!

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性がある。首都圏を襲う大地震も懸念される。
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「ダイジョーブ」は大丈夫じゃない

 今、大きな会社は縦割りで、本部間でも自分たちの弱みを言いにくくなっています。最近、破綻しつつある大会社と同じような縦割りと集権的な体質が問題の原因です。それを逆手に取って、立場が一番弱い部門から、自社のダメだと思うことを挙げてもらうと、他の部署の人も「うちもダメ」「ここもダメ」と言うようになります。「西三河の会」のときもそうでしたし、ホンネの会の出発時も同様でした。

 例えば、電力会社は発電や送電、変電、配電、建設、営業とさまざまな部門があり、それぞれが社長候補を抱えています。
 公式の場で、発電部門の人に「自分たちの弱みを言って」と投げ掛けても、なかなかホンネは出てこず、皆「自分たちは大丈夫」だと言います。そんな話を聞いている幹部は各部の実情を知らないから、我が社は完璧だと思っています。しかし、社長候補を出さない小部門は、逆に本当のことを言いやすい。私自身、ゼネコン時代に発電所の耐震設計のお手伝いをしていたので、電力会社の実情はよく分かるのです。

「南海トラフ地震が来たとき、電気はどうして大丈夫と言えるんですか」と私が名古屋の外で問うてみたら、「いざというときには他電力から電気が来ますから」とある電力の担当者は言います。
「でも、他電力も一緒に被災しますよね」と私。
「被災していないところからもらえば大丈夫です」と担当者。
「でも東日本と西日本は周波数が違いますよね」と食い下がる私。
「周波数変換装置がありますから」
「でもあれは100万キロワットが限度ですよね」
「よく知ってますね。でも、大丈夫なんです」……。
 こんなやりとりが続きます。
 みんな「大丈夫です」というけれど、人から聞いた「ダイジョーブ」なんです。人任せで、自分で納得していない「ダイジョーブ」が多いと感じます。そのことについて真剣に考えたことがない。それはかつての私も同じです。
 ホンネの会でも東京の本社から来た人が、「絶対にダイジョーブ」「全部考えています」と言った後、支店の人が「実は現場ではできていないんです」とこっそり教えてくれる、などということはよくあります。現場との距離が出てきたようです。
「ダイジョーブ」としか言えない社会をつくってしまったことを反省する必要がありそうです。社会を安全にするため、「批判社会」から「褒める社会」になれないかと思います。

一つ一つ考えると問題ばかり

 市町村等の水道担当者はこう言います。
「うちは浄水して送水するけれど、その上は県の企業庁がちゃんとやってくれています。企業庁は被災しても1週間で直すと言っているからダイジョーブ」
「企業庁は○○用水から取水しています。○○用水は○○機構がダイジョーブと言っています」
 いえいえ、全然大丈夫じゃない。その水は水資源機構が管理するダムや国交省が管理する河川がなければダメです。組織が異なっていると組織同士では直接、話がしにくいので、上流はダイジョーブだということを又聞きしているだけ。立場的にも、市町村等は、国や機構、県に厳しく問い詰めにくいのだろうと思います。
 何度も繰り返しますが、電気をつくるには大量の水と燃料が要ります。水を流し、浄水するには電気と燃料が要ります。石油を精製するには、脱硫のため大量の電気と水が要ります。そして共通して必要なのは、道路と通信です。道路を走って物流を支えるのは、トラックとその運転手です。
 そうやって一つ一つ考えてみてください。トラック業界は今、大変ですよね。かつて「トラック野郎」がお金を稼いだのは、いくらでも働けて、いくらでも稼げたからです。今は長時間労働が禁止されて、稼げないから成り手がなく、輸送力が落ちています。それなのに、ネット通販の荷物があふれて大変なことになっています。災害時に、彼らがどれだけ動けますか? さらによく調べてみると、トラックターミナルの多くは土地が安い浸水危険度の高いところにあります。
 そう考えると、今の複雑な社会は三すくみ、四すくみになって全体がピタリと止まってしまうのです。


 電力が震災後3日で供給できるというのは、神戸の経験から。でも、神戸のときには発電所は大きく被災していませんでしたし、震災で使用電力も低下したので、発電の問題はありませんでした。全国の電力会社が支援して変電・配電を早期復旧しました。しかし、東日本大震災で、そうはうまく行かないと分かりました。南海トラフ地震では、なおさらです。
 たとえ電気が来ていても、受電設備がちゃんとしていなければ受けられません。その作業員は、被災時には配電を優先して直すので、受電設備の復旧は後回しになります。ちゃんと日ごろから人を確保してメンテナンスをしておかないと、目の前まで電気が来ているのに使えないということになりかねない。本気で考えれば、南海トラフ地震では、電気が復旧するには最低でも2週間はかかることが分かります。
 結局、「電気が来なくなったら、製造業は全部止まっちゃうね。名古屋は製造業がこけたらおしまいだね。日本も終わっちゃうよね」—。
 こんな本質的な問題に気づくきっかけになったのが、ホンネの会の議論です。
 いったん気づいて、意識を共有すれば、そこからは「地元愛」のある「地道な」名古屋の人たちです。みんな本気でやろうよという雰囲気ができ、それぞれに役割を持って頑張り始めます。自家発電を増やしたり、井戸を掘ったりする会社が出てきました。火力発電所の耐震化工事も本格化しました。重要施設の取り付け道路を優先して直してもらうよう役所と交渉したり、参加企業の間でいろいろな協定を結んだりする動きも現れてきました。
 東京、大阪にいつも後れを取る「三男坊」の名古屋。国にも大事にされてきませんでした。いざというときに大事な役割を果たす基幹的広域防災拠点も、東京や大阪にはあるのですが、名古屋には整備されていません。だから自分たちで何とかしなければならない。そんな意識を皆で持ち始めたのです。

ちゃんと脅し褒めるとちゃんと動く

 国や経済界にもこの危機意識が伝わり始めました。
 国にお金がないことは分かっていますが、産業界が防災対策を本格化する環境を行政が整える必要があります。万一、中部の製造業が長期間ストップすれば、我が国は衰退してしまいます。

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次の震災について本当のことを話してみよう。

福和伸夫

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