私が国会議員や大臣政務官として、議会や政府や党を代表して国際会議などで出会った世界の要人も、そして世界の名だたる研究機関(国立シンガポール大、エール大、ハーバード大、ランド研究所など)で知り合ったエリートたちも、共通点が多い読書術を持っていた。読書術がないと、あれだけ多忙な彼らがあのように多くの本に目を通せるはずもない。
世界のエリートたちは例外なく凄まじい読書家である。好奇心も旺盛で、話題も豊富。金融のプロなのに宇宙のプロでもあったり、政策通の政治家でありながら美術や哲学や歴史について、専門家顔負けの知識量だったりする人も珍しくなかった。エールやハーバードで出会った学生も、連日大量のリーディング・アサインメント(課題図書)をこなしながらスポーツやパーティ、課外活動に精を出していたが、大学やシンクタンクの研究員ともなれば、待遇の対価としてのアウトプットを出すために、書籍だけでなく膨大な資料を読み込んでいる。
カギは「目的意識」を持って読むこと
われわれ凡人が彼らから学べるのは「強い目的意識」を持つことだと思う。何人か事例を紹介しよう。
グローバル金融の世界では知る人ぞ知る、サンタモニカ在住の投資家D氏。前回でも軽く紹介した彼は、御年85歳。にもかかわらず、懸垂が10回できるほど日々体力づくりにはげんでいる。60年以上におよぶ投資家人生でD氏が勝ち続けている秘訣は、読書だ。本人は否定するが、一説によれば、彼より2つ下の長期投資家、ウォーレン・バフェットをしのぐ資産家だと言われる。D氏の豪邸でもっとも豪華な部屋は書庫。アメリカの平均的な大学図書館ほどの大きさだ。彼はここにこもって、古典を中心に歴史書を読む。
彼はこう言って笑う。
「投資を"数学"だと思っている子供っぽい投資家が増えてから、市場はおかしくなった。投資に成功したければ歴史を学ぶべきだよ。過去は繰り返さないし、過去の延長に未来があるわけじゃない。だが、一定のパターンがある。世界は変わるが、人間は変わらないんだ」
かのマーク・トウェインも「古典の厄介なところは、誰もが読んでおけばよかったと思うが、誰も読みたいとは思わないところだ」と言った。D氏は、まるで身体を鍛えるように毎日コツコツと読書にはげむ。歴史を通じて繰り返される、人間の集団行動のパターンを見抜きたいという強い目的をもって。
これは投資にかぎった話ではなく、マーケティングや政治でも活かせるのではないだろうか。とにかく読むのが面倒くさいのが古典であるが、妙なタイトルの自己啓発本より人間の本性を教えてくれると思えば意欲的に読める。
ランド研究所所員の読書術
同じサンタモニカに本拠を構える世界最強のシンクタンク、ランド研究所。29名のノーベル賞受賞者を輩出している組織だ(ちなみにノーベル賞受賞者の数は、日本全体で17名)。その受賞者の1人であるN氏は、私の斜め向かいの部屋に陣取っている。
N氏は気候変動の専門家だが、あらゆる本を読み漁ることで知られている。彼の読み方で特徴的なのは、読む目的をはっきりさせ、それを読了後にチェックしている点だ。彼はある本を読む前に「この本で何を獲得したいのかを、徹底的に具体的に書き出す」と言う。そこで読書のモチベーションを上げるわけだ。そして全部読み終えた後、「実際に学べたことを書き出す」。それを読書前に列挙した「学びたかったこと」と比較するのである。
私も彼に倣ってこの書き出し法を実践している。読書前のモチベーションも上がるが、読了後に学べた点を書き出す作業がさらにいい。その本から何を得たのかをはっきりさせ、書き出すことで、得たものを簡単に忘れなくなるのだ。
なぜエリートたちは効率的な読書が可能なのか?
私が知る限り、こうしたエリートたちに共通する読書術とは以下のもの。
・基礎的な読書力があり、そもそもかなりの速読力を備えている
・本のキュレーションは、信頼する身近な人物に依る
・「はじめに」と「目次」を徹底的に読み込む
・アウトプットを想定した読書が中心
・多彩な本を同時並行して読む
・内容を仲間内で確認し合う