すべてのイノベーションは辺境から生まれる

広告会社でモノづくりをするという異色のプロジェクトを実現した博報堂・小野直紀さんの著書『会社を使い倒せ!』。発売を記念して下北沢の本屋B&Bで行われたトークイベントの模様をcakesにて公開します。ゲストは、同じく博報堂の社員でありながら、博報堂ケトルの代表として、既存の手法にとらわれないコミュニケーションを追求する嶋浩一郎さん。小野さんと嶋さん、それぞれの「会社の使い倒し方」とは? cakesにて公開中の本編とあわせてどうぞ!(司会:ブックライター 上阪徹)

すぐ辞めようとは思わないが、勤め続ける気もない

嶋浩一郎(以下、嶋) 今日ね、会社を使い倒せって話でしょ。

小野直紀(以下、小野) はい。


左:博報堂ケトル代表・嶋浩一郎さん/中央:『会社を使い倒せ!』の著者・小野直紀さん/右:司会の上阪徹さん

 このタイトルでどういうお客さんが来るのかとか思って。(観客席に向かって)今、会社勤めの方!

(会場、ほとんど挙手)

 おー、ほぼ。

小野 ほぼ。ほぼですね。

 でも、このタイトルで来てるってことは、辞めようかなとかって薄々思って(笑)、その判断を今日のこのトークで決めようというぐらいの勢いで来てる人ってどれぐらいですかね。

(会場、挙手なし)

 ……いいですよー。先生は、目をつぶってるから、手を挙げてもらってもいいんですよ(笑)。

(挙手なし)

 なるほど。じゃあ意外に、会社にずっと勤め続けたいと、いうかんじですかね。

小野 勤め続けたい人!

(挙手なし)

—あ、いない!(笑)

 これはまたアンビバレントな気分が反映されてるかんじで。会社員で、なんか辞めるってのもないけど、残るなら残るで、強い意志を持って残りたいっていうことですかね。

小野 残るか残んないかを考えてらっしゃるんでしょうね、日々。

—やっぱり、会社をもっと使い倒したい?

(半数くらい挙手)

小野 お。

嶋 これはいい会ですね。そのヒントを今日、小野くんからどんどん抽出して、手口を盗んで帰ってもらえればいいかなってかんじだね。

小野 僕からもですけど、僕の15年前に今の会社に入られた大先輩からも、ですね。嶋さんがいたから、こういうこと会社でしていいんだ、って自然にすりこまれたんですから。


僕、博報堂大好きなんです

—そういう意味では、使い倒しの先輩ですね(笑)。そもそも嶋さんはどうして博報堂ケトルを作ったんですか。独立するわけではなく。

 自分はすごい真面目に仕事してるつもりでいるんですけど、20代の頃からずっと、「ほんと嶋は楽しい仕事しかやってないよねー」とか言われていて(笑)。広告会社に入った頃ってまだインターネットとかなくて、96年、97年ぐらいから急にホームページみたいな概念ができて、デジタルコンテンツをつくり始めて、「それ作りたい」みたいに手を上げたんです。そこで小山薫堂と一緒にワインを作る企画をやったりとか、朝日新聞行って新聞作ったりとか、博報堂戻ってきて雑誌作ったりとか。どっちかっていうと、その延長線上に本屋の経営っていうのもあって、それはそれでビジネスになるんだったら会社作ってもいいんじゃないみたいな、ところで今の会社ができて。

—いやでも、社内にいてもよかったんじゃないですか?

嶋 これは会社の経営者にしてくれたおかげで、すごく機動的な判断とかできたので、それはものすごく感謝してるんです。僕、博報堂大好きなんです。だからケトルで今やれてるようなビジネスが博報堂でできれば構わないと思っていて。夢は、ケトル解散、なんですよね(笑)。

—それって会社に会社を作らせてくれっておっしゃったんですよね?

 いや、これはですね、ちょっとおかしな上司が博報堂の役員にいまして(笑)。僕、木村健太郎って人と二人で会社をつくったんですけど、木村さんっていう人はマーケッターだったんです。で、僕はPRって部署にいた。だから、わかりやすく言うと、広告のクリエイティブをやるセクションじゃなかったんです。だけど、二人で組んでプレゼンをすると、やたらと勝てたんです。それまでの正統派のクリエイティブとは違う企画の作り方が、たぶん当時のクライアントさんにとっては新鮮だったわけで、そういうのを見てた役員が、お前ら会社作っちゃってもいいんじゃないの、みたいな、かんじになって。


広告っぽくない広告をやりはじめた第一人者

—じゃあ役員側から会社作っちゃえばって言われたんですか?

 そうですね。で、僕は「わかりました」ってすぐ言ったのに、一緒に呼ばれた木村健太郎は、「うん、ちょっと考えます」って(笑)。コイツー!とか思ったんですけどね。

—小野さんは、入った時、嶋さんはどういう存在に見えていましたか?

小野 2006年にケトル立ち上げられたんですよね。で、僕、2008年入社なんで、入ったすぐから新人研修で、CM作ったりポスター作ったり、みたいな王道の広告クリエイティブディレクターの研修も受けるんですけど、一方で、最近の潮流みたいな人も講師としていらっしゃって。その一人が嶋さんだったり、パートナーの木村健太郎さんだったりして。「そういうのも広告なんだ!」みたいなことを、まさに始めた人だったわけですよね。

小野 当時は広告が何かってことも、僕もそこまでわかってなかったんで、まだピンと来てなかったんですけど、年を追うごとに、あ、広告っぽくない広告をやりはじめた第一人者なんだ、みたいなことがわかってきて、すげえな!と思って。
コンテンツをつくって広告ですよって言ったり、イベントをつくって広告ですよっていうのが当たり前になって。もうみんなやってるから当たり前なんですけど、それを最初にやるってすげえなーみたいなふうに思ってましたね。あと、なんか怖かったですね、嶋さんのこと(笑)。

 すごい優しい……優しいんですけどね。

小野 ほんとになんか、お顔はね、ほんとに優しそうなかんじあるんですけど(笑)。

 怖いって思われてたんだ。そうなんだ。心外だな、それは(笑)。

小野 いやいや、だって僕、嶋さんとお話ちゃんとしたの、去年ですからね。しかも僕が雑誌『広告』の編集長やるってことになって、嶋さんが元編集長なんで、お話したいっていうことで、ようやく話すきっかけができたと思ってお話したっていう。


もっと世の中を動かす手法はいっぱいあるのに

 ケトルっていう会社の社是は「恋と戦争は手段を選ばない」っていうアホみたいな社是なんです(笑)。目的達成のためだったら、合法なことだったらなんでもやるっていうことなんですけども。なんかね、やっぱ広告業界って、いろんな業界そうだと思うんですけども、一回成功事例ができちゃうと、みんなそのやり方を踏襲するわけですよ。
簡単に言うと、広告業界で言えばテレビCMを中心としたキャンペーンってすごい重宝される。それはいろんな理由があるんです。まずやっぱテレビCMって高いんです。だから高く売れる。でも高いのも当然で、今、企業が買えるコミュニケーションのツールとして、一番効率的であることは確かなんです。だから、それを中心にしたコミュニケーションってプランニング、やっぱりしちゃうんですよ。
あと、やっぱり広告会社には、テレビCM作りたいとか、広告のキャッチコピーを書きたいっていう、表現の技法にあこがれて入ってきた人がすごく多いんですね。でもなんか、僕、自分がPRをやる部署にいて、PRって、要するに「パブリックリレーションズ」っていうコミュニケーションのテクノロジーで、世の中に新しい合意形成を作る仕事なわけです。だから「イクメン」っていう、男も育児参加してもいいよね、みたいな、今まではそうじゃなかったけど、新しい概念を世の中に定着させるのが仕事で、そのために第3者のステークホルダーを巻き込んでいくのがパブリックリレーションズなんですよ。

 そのうち一番わかりやすいのが、マスメディアの人たちに情報発信して、それをマスメディアから情報発信してもらう、いわゆるパブリシティって技術。多くの人は、このパブリシティ=PRだと思っている。でも、実際には、学会をつくって学者を巻き込んでってもいいし、ロビー活動をして政治家巻き込んでいってもいいし、今でいうインフルエンサーマーケティング的なことをやってって著名人巻き込んでもいい。
何が言いたいかって言うと、パブリックリレーションズって、一番ニュートラルで手口を選ばなくていい仕事なんです。で、自分はそれをやる部署にいて、あ、意外に面白いなと。何やってもいいんだ、って仕事が最初に会社入って与えられたわけです。
ところが、意外に広告業界ってクリエイティブがキングで、テレビCMとグラフィック広告をつくる人たちがなぜか偉いみたいな、謎のヒエラルキーがあって、そこにルサンチマンを感じていて。もっと世の中を動かす手法はいっぱいあるのに、と。だから、その闘いをずっと続けていて、30代になって、広告も含めて自分があらゆるコミュニケーションのアウトプットをつくれるようになった時に、「恋と戦争は手段を選ばない」と決めたんですね。


「恋と戦争は手段を選ばない」会社をつくりたい

—それがケトルにつながるわけですね?

 テレビCMは確かに効果的だけど、すべての企業の課題解決がテレビCMがやるわけじゃないじゃない。それこそほんとに、社長がすごい人だったら記者会見やったらモノが売れるかもしれないし、パッケージデザイン変えたらモノが売れるかもしれないし、お店の人の来店した人に対する、お客さんに対する挨拶変えたらモノが売れるかもしれないし、だから、あらゆる可能性のなかで一番いい提案ができたら楽しいな、と。そのほうが、クライアントさんに対して誠実な答えを出せるなと。で、機会があって会社作るって言われた時に、じゃあ「恋と戦争は手段を選ばない」会社をつくりたいです、と言ったんです。

—その意味では、メインストリームにいなかったからこそできたんですか? メインストリームって言っちゃったらあれですけど。

 わかります。わかりますよ、すごい。あ、でも辺境大好きなんですよ。

小野 (笑)

 はじっこ大好きで、でもすべてのイノベーションははじっこから生まれてくると思ってるから。自分がメインストリームに近づいている時、危険危険危険って思って(笑)。はじに行けはじに行けってすごい思うんですよ。だから、なんかほんと今ね、よくない、よくないと思ってる(笑)。


辺境こそ、新しい変化がすべて起きる場所

—それすごい大事なポイントで、なんでその辺境に逃げるんですか?

 辺境こそが、新しい変化がすべて起きてくる場所だからです。メインストリームはエスタブリッシュメントになっちゃったことが繰り返される場所だから、そこで一丁上がりになっちゃって、新しい変化は生まれないんです。だからすべてのイノベーションは、辺境というか、あさっての方向からやってくる。あさっての方向に自分をポジショニングしていくほうが、次の時代には有利なんです。

—ちなみに、小野さんも最初は辺境から入るじゃないですか。

小野 僕もド辺境だったんですよね。広告業界ってクリエイティブディレクターが一番えらいんです。普通はコピーライターとかCMプランナーとか、たまにデザイナーがCD、クリエイティブディレクターになるんですけど、嶋さんって、そこ以外の人からCDになった最初くらいの人なんです。
僕も今年ちょうどCDになって、だいたい10年から15年ぐらいの中で、実績を見て、なるんですが、比較的狭き門。それに本流じゃないところからなった、ほぼ最初の人みたいな。だから、そういう道があるんだっていうのを、博報堂の中で切り開いた人。業界的にもたぶん同じで、そういうことが、おいおいわかっていったんです。


小野 僕は最初、空間プロデュースの部署にいて、モーターショーとか、企業のミュージアムとかをつくってたんです。同期120人いるんだけど一人だけしかそこに配属されないし、先輩見てみたら一人だけ一個上の人がいたんですけど、その上は7つぐらい上みたいな。そこで、普通の会社でいうと本部長クラスの人が可愛がってくれたんですね。「小野、ちょっと来い」って呼ばれて、局長室に。何言われんのかなー、格言とか言われんのかな、と思ったら、建築とか、オペラとか、写真の話とか、趣味の話をその人はしてきて。さらに、「広告は過渡期だ」って。「これからはリアルだ」って。えっ?ですよ。2008年でした。


(司会・構成 上阪徹/撮影 福井裕子/場所 本屋B&B)

※次回「肩書に縛られたビジネスをやってる場合じゃない」は4月30日(火)更新予定です。


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会社を使い倒せ! (ShoPro Books)

小野 直紀
小学館集英社プロダクション
2018-12-20

この連載について

僕らはこうやって会社を使い倒した—小野直紀×嶋浩一郎対談

嶋浩一郎 /小野直紀

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megamurara 祭の外から睨みをきかせる自分でありたい。|小野直紀 @ononaoki /嶋浩一郎| 3ヶ月前 replyretweetfavorite

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