柿の種降りつづく乾いた音して3マイルつづく煉瓦道の上
過食症だった二年半、主食は柿の種だった。回し車を回しつづけるハムスターのように、わたしは柿の種を食べつづけた。起きている間は食べていた。生きることは柿の種を食べることだった。
過食症になるまで、わたしは少食で、晴れ女だった。しかし過食症になってから、わたしは雨女になった。降ってくるのは柿の種だった。空までつづくトンネルのように、わたしの回りだけ、降りつづく柿の種に囲われた。
それはわたしの食道だった。地面がちょうど、胃だった。
(一緒に水を飲めばいいのか)
実験よろしく、一緒に水を飲むと、湿り気のある柿の種が降ってきた。水の量を多くすると、柿の種というよりどろどろの米になってきた。
わたしは最終的に水だけを飲んだ。澄んだ雨を見たかったから。
そうして、わたしの過食は止まった。
わたしは再び少食になり、晴れ女に戻った。
何か、偉業を成したようで。何か、とても清潔な人物になったようで、誇らしかった。
雨の音がしない。あの乾いた大量の雨音も。あのべちゃべちゃで汚ない雨音も。食欲とは、雨音だった。
このまま、ずっと聖人でいたい。晴れの日だけが一生つづけばいい……。
地面がもだえている。
胃がもだえている。
(食べたい。もっと猥雑なものが)
空が曇りはじめている。
この星に降るものは愛か星か水浴びながら爪や芽が伸びてゆく
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