これを読んでいる人の中には、この春から新しい職場で働きはじめる人もいるだろう。
「いきなりネガティブなことを言うな」と思われるかもしれないけど、働いていると、仕事がうまくこなせずに落ち込んでしまうことがあるかもしれない。
私も、業務がうまくこなせなくて「自分はなんてポンコツなんだ……!」と自己否定に陥ってしまったことがある。というか、山小屋時代もライターの今も、わりと頻繁に落ち込んでいる。
だけど世の中には、仕事ができなくても自分を責めることなく、明るく楽しく働いていて、さらにはみんなから愛されている人もいる。
ポンちゃんは仕事ができない
山小屋の1年目スタッフに与えられる業務は、取り立てて難しいものではない。だいたいの人は指示されたことを一発でできる。
けれど、それができない人もいる。不器用だったり、飲み込みが遅かったり、どうにも要領が悪いタイプだ。
その代表格がポンちゃん。
ポンちゃんは私より3歳年下の男性スタッフなのだけど、掃除も食事の盛り付けも、すべての作業がとにかくゆっくり。山小屋はテキパキと素早く手を動かす人が多いから、ポンちゃんだけスローモーションに見える。
ゆっくり作業するからといって、仕上がりがきれいというわけでもない。むしろ、仕上がりは雑。ポンちゃんは大ざっぱな性格で、それが仕事ぶりにも現れてしまう。
また、外作業も一生懸命やるのだけど、おっちょこちょいなのでやたらと怪我が多い。ペンキを塗っていて屋根から落ちたり、転んだり、針金で唇を切ったり……。
申し訳ないけど、彼は「仕事ができない」と言わざるを得なかった。
だけど、ポンちゃんはなんだか憎めない。
彼の雰囲気を言い表すには「天然」とか「おっとり」とかいろいろな表現があるけど、いちばん的確だと思うのは「ふわふわしてる」。彼は、歩き方もしゃべり方もふわふわしていて、なんだか浮世離れした感じだ。
あるとき、ポンちゃんが専門学校卒だと言うので、「何の専門学校?」と尋ねた。
「妖精です」
「よ、妖精!?」たしかに妖精っぽいけど……。
よくよく聞くと「行政」だったのだけど(公務員になるための学校らしい)、その場にいた全員が「妖精」と聞き間違えていた。
「マスター・オブ・フェアリー!」
「その専門学校、結果出しすぎ。本当に妖精作り出してんじゃん」
妖精なんてめったに日常会話に出ない単語なのに聞き間違えるなんて、みんな、ポンちゃんのことを妖精っぽいと感じてたんだろうなぁ。
仕事ができなくても、自己肯定感が高い
ポンちゃん自身、仕事ができない自覚があるそうだ。下界でもまったく仕事ができないそうで、どの職場でもポンコツ扱いらしい。
ポンちゃんというあだ名も「ポンコツのポンです。前の職場で命名されました~」と言っていた(由来を知っていたら呼ばなかったのに……)。
けれど彼は、仕事ができなくても、同僚からポンコツ扱いされても、落ち込まない。
要領よく仕事をこなす同期を見て、「わぁ、みんなはすごいなぁ」と感心する。けれど、同期と自分を比較して自分のできなさに落ち込む……ということはなく、「僕は僕だから、自分にできることを精一杯やろう」と思うそうだ。
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