子どもはつらさを語らない
2008年から、私は大人の診療もするようになりました。かつては「発達障害」というと子どもの問題だと捉えられていたのですが、子どものころには気づかず、大人になって初めて神経発達症と診断されるケースが増えていました。それを象徴するのが、『片づけられない女たち』という本に見られるような症状を抱える人たちで、「私は発達障害なのではないでしょうか?」という大人の患者さんたちが急増したのです。
じつは、この大人の診療を始めたことが、私がHSCについて、より理解を深めるきっかけになりました。
というのは、子どもは自分の抱えるつらさをあまり語りません。もちろん年齢による違いや個人差はさまざまですが、たとえば「音がうるさくてたまらない」「光がまぶしい」「臭くて耐えられない」「チクチクしたさわり心地がイヤ」といった感覚的なことは言えても、自分が感じている不快さ、怖れ、不安などの感情やそのニュアンスを、大人に理解してもらえるように伝えるだけの言語表現を持っていないことがほとんどです。
あるいはまた、HSCの場合、感じたことをそのまま言うと、いつも周りから「へんな子だ」「神経質すぎる」「ちょっとおかしいんじゃない?」などと言われ続けてきていることで、感じていることを素直に伝えようとしなくなってしまっているケースも多くあります。
ですから、メンタルな部分でその子がどれほど傷つき、苦しんでいるのかは、話しているだけではなかなかわからないものなのです。
しかし大人の患者さんたちと話している中で、「あなた、子ども時代はどうでしたか?」と聞くと、「そういえば、こうでした」「こういうことが、こんなふうにつらかったです」とつぶさに話してくれます。
そういう話の中に、「ああ、この人はHSPだな。子ども時代、そんなふうに感じていたんだ」というようなことも多々あって、いろいろ教えてもらうことができたのです。
神経発達症にしても、HSCにしても、そうでした。大人の患者さんたちが子ども時代のことをいろいろ語ってくれたことで、子どもの状況を具体的に知ることができるようになったのです。
大人の場合は、自分の感じていることを言葉で伝えたり、自分からその状況を遠ざけたりすることができます。子どもはそれができない分、よりつらいはずです。身体的な反応や行動であらわすしかないのです。なかには、癇癪(かんしゃく)を起こすことでしか、自分の不快さやしんどさを表現できない子もいます。だから、周囲の大人が気づいて、サポートしてあげる必要があるのです。
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