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高校野球の季節になってきた。そこに残念なニュースが舞い込んだ。
●"8年前の甲子園準V投手、ひったくりで逮捕" (2013年7月10日、読売新聞)
このニュースを見て、私はとても残念な気持ちになった。我が国におけるスポーツ選手の全人格教育の欠如を如実に示す例である。
日本と同じように学生スポーツが盛んなアメリカでは、人生経験が未熟な学生たちがスポーツで人生を狂わせないような教育プログラムがある。今回は自由貿易とは違う、全人格教育(トータル・パーソン・プログラム:TPP)という意味での"TPP"を紹介したい。
徹底した文武両道主義
TPPのエッセンスは、まずは徹底した文武両道主義だ。成績が悪い学生は、いくら得意であってもスポーツをさせてもらえない。その次が、メディアとの付き合い方や人生相談、地域奉仕活動である。
学生時代にいくら活躍しても、プロになれるのはほんの一握り。多くの選手は一般的な社会生活を送るようになるため、学生時代にスポーツ漬けでは後々食べていけなくなってしまう。また、メディアに寵児扱いされた後、人生を間違う若者もいる。学生たちがそんな過ちを犯さないための全人格教育がTPPなのである。
体育会採用や社会人スポーツという受け皿がないアメリカの学生スポーツ界では、基本的に文武両道しか許されない。日本の体育会のような"甘え"が存在しない世界なのだ。日本の体育会の扱いは"優しく冷たい"もので、長期的には学生のためにならない。一方、現在のアメリカの学生スポーツの在り方は、長期的に見れば学生たちの未来を救う"厳しくも暖かい"ものだと思う。
やはり、どう考えても、日本にもTPPが必要だと思うのだが、詳しくは私の近著『世界のエリートはなぜ歩きながら本を読むのか?』を読んでいただきたい。
何をおいてもまず学力が重要
アメリカの文武両道・人格形成の学生スポーツ哲学、いわゆるTPPの基礎を作ったのは、ホーマー・ライス氏。ホーマー氏はアメリカ・プロフットボールリーグ(NFL)のシンシナティ・ベンガルズのヘッドコーチを経て、ジョージア工科大学の体育局長になった人物だ。
日本政治でよく議論されるTPPとは違い、アメリカでTPPと言えばこちらが本家である。その思想は「勝ち負けに勝るとも劣らない大事なものがスポーツにはある。学生スポーツをやる人間は、人生に必要な全ての教育を受ける必要がある。人としての成功があって初めてスポーツでの成功があるのだ」というものだ。
TPPが最重視するのは何をおいてもまず学力だ。ざっくりいえば成績が悪い学生はクラブで試合に出してもらえない。試合はおろか練習に参加することも許されない。選手だけでなく彼らを応援するチアリーダーも同様だ。そのために、スポーツクラブに最低一名の学習指導員を用意させることから始まる。選手たちに、授業の受け方や試験勉強の仕方、レポートの書き方などをこと細かに指導するのが彼らの仕事だ。
日本の体育会採用や社会人スポーツはグローバル化時代には衰退していくとみられる。学生のためを思えば、スポーツのみに打ち込ませるのは人生のリスクを巨大化させるだけだ。一方で、運動は脳の機能も向上させるため、文武両道こそ最も合理的な能力開発といえる。文武両道を追及することで学生たちの様々な能力を開発してやれるのだ。
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