みんなが「自分ごと化」する体制をつくる。

「monom」(モノム)というプロジェクトの名称も決まり、いよいよモノづくりに向けてチームが動き始めます。アイデアを考えるにあたって、小野さんはチームのメンバー全員が「自分ごと化」する状況をつくることを心がけました。そうして、monomの最初のプロダクトが誕生するのですが……。話題の書籍『会社を使い倒せ!』から〈STAGE2 会社を使って、やりたいことを実現する。〉編の第6回をお届けします。

みんなが「自分ごと化」する体制をつくる。

 もうひとつ、チームでプロジェクトを進めるにあたっては、大切なことがありました。

 それはチームのメンバーが「自分ごと化」する状況をつくることです。

 先に、案件ごとにプロジェクト化していくという話を書きましたが、それだけではなく、monomでは、各案件に一人だけ担当をつけるかたちにしています。

 もちろんプロジェクトそのものは、社外の人にも入ってもらってチームを組みますし、僕もすべての案件に関わります。

 また、事業的な視点が必要になるフェーズになったら、経営企画局出身の谷口に入ってもらったり、博報堂の法務室に所属するメンバーにも入ってもらうのですが、担当するmonomメンバーは、僕を除けば、基本的には一人です。

 プロジェクトは複数同時に動いているので、monomのメンバーは、それぞれがそれぞれのプロジェクトの主体者になります。


 プロジェクトでよくあるのは、複数のメンバーみんなで考えて、みんなでディスカッションしたり、ミーティングをしたりして、プロジェクトを進めていく、というものだと思います。

 monomではそうではなくて、個々で考えるのです。

 先にも書いたように、僕と一緒にテーマを考え、方向性を定めながら進めるので、基本的に考えるのは僕を除けば一人、という体制にしているのです。


 どうしてこうしたのかというと、プロジェクトを「自分ごと化」してもらうためです。

 これも、僕自身が社内のさまざまなプロジェクトに参加するなかで感じたことなのですが、みんなでやると「きっと誰かが考えてくるだろう」ということになってしまって、なかなか「自分ごと化」しないのです。

 だから、「自分がやらないと誰も考えてくれない」という状況にしたかった。そうすることで、自ずと「自分ごと化」するのです。

 プロジェクトのメンバー同士で和気あいあい、みんなで楽しくやろう、というのも、それはそれでいいこともあるのかもしれませんが、どうしても役割がかぶってしまう。

 そうすると、お見合いをして遠慮してしまうようなことも起こる。こういうところも、モチベーションに大きな影響を与えると思いました。

 また、モチベーションに差があると、低い人がチームに悪影響を及ぼしてしまったりもします。それなら、完全に分けてしまったほうがいいのです。

 実際、「企画を持ってきて」と言ったとき、他にも誰かいたら、ある程度、手加減できてしまうわけですが、一人だとそうはいかなくなります。

 また、ちゃんとしたモノづくりは初めてで、勘所もわからなかったりするところからはじめるメンバーもいるので、持ってきたアイデアに対しては、「これは可能性があるから、もうちょっと掘ってみよう」「これはこうだから、ちょっと難しいかな」といったコメントを、僕が丁寧に返していくことを心がけています。


アイデアの出やすい環境をつくる。

 そしてもうひとつ、個々で考えるというこの仕組みは、僕にとってもいい効果をもたらしています。

 実を言うと、僕は、自分のペースでやっていいと言われると、わりとマンガを読んだりしてサボってしまうタイプなのです。

 だから、チームのメンバーと一緒にやることで、彼らがこれまで以上にその気になるようなアイデアを僕も出さないといけない、という状況に自らを追い込むのです。

 そうすることで、僕自身のモチベーションも上がるし、そんな僕のモチベーションに引っ張られて、担当メンバーも、もっといいものを出そうというモチベーションがわく。

 もちろん自分がいちばんいいアイデアを出してやろう、くらいの気持ちでやってはいるのですが、一人で悶々と考える、というよりは、僕にとっては、メンバーが一緒に考えてくれていることが、僕自身の考えるモチベーションにもなっているのです。

 しかし、例えば週に1回の打ち合わせが3つのテーマで同時に走っているとすると、その全部に向けて考えないといけなくなる。

 もちろん、すぐにはいいアイデアは出てきません。何カ月もかかるものもあるし、3年経ってもまだいいアイデアが出ていないケースもある。

 だから、僕の場合は、アイデアを出すためにアイデアの出やすい環境をつくることを心がけています。

 僕は、基本的に朝型です。しかも、かなり極端な朝型です。

 朝の5時くらいから仕事をはじめて、昼くらいに一通り終わらせて、あとは、打ち合わせを繰り返していくことが多い。おかげで夜はすぐ眠くなってしまいますが、朝、動くのです。

 これは、大学で建築の勉強をしていた頃からです。

 建築を考えるときには、ひらめきが必要でした。では、自分がひらめくタイミングとは、いつなのか。それが、寝起きの瞬間でした。

 寝るまでとにかく考えて、いろいろな情報を脳にインプットしておく。

 そして、目が覚めるか覚めないか、くらいのギリギリの瞬間。そこに、ひらめきがやってくることが何度もあったのです。

 そこで僕が何をしたかというと、1日何回も寝ることでした。寝ている合計時間は、普通の人と同じですが、1日に何回も寝起きをつくるようにしたのです。

 行き詰まったら、とりあえず寝る。だから、短い時間、何度も寝ていました。

 おそらく寝ている間に、脳の中が整理されて、起きるか起きないか、という瞬間に脳が急速に動きはじめ、ひらめくことにつながっていたのだと思います。

 実際、これで何度もひらめきを手に入れていました。

 脳の調子がいい、という意味では、電車の中も有効です。

 目的の駅までにひらめくぞ、と決めて、通勤や打ち合わせのための移動の電車でアイデアを考えたりしています。

 また、お風呂でもよく思いつくことがあるので、考える時間として入浴をしています。

 特に大事にしているのは、脳がすっきりしている朝のお風呂です。おかげで、朝の打ち合わせには遅刻しがちだったりします。

 もしかすると、こうしたことは自分への勝手なマインドコントロールかもしれませんが、このようにして思いつく環境を意識的につくる、というのも、とても大事なことなのです。


 こうして考えたアイデアを「もう世の中にあるね」「面白いけれどプロモーションっぽいかも」「それは博報堂がやったほうがいいのかな」などなど、メンバーとディスカッションしていきます。

 そうすると、やることが狭まっていって、アイデアが出にくくはなるのですが、とにかく出して考え、出したものをたたき台にして方向性を探していく。

 それが、最良の方法なのだと実感しています。


monomの初めてのプロダクト。

 2015年2月、博報堂でモノづくりをするプロジェクトチーム「monom」の設立が対外的に発表されました。

 前年の春、ミラノサローネから戻って思いついてから約10カ月、僕がやりたかったことは、とうとう本格的に始動することになりました。

 ただ、この時点ですでにmonomとしてのモノづくりはスタートしていました。

 3月にアメリカで行われるサウス・バイ・サウスウエストという音楽・映画・最先端テクノロジーを複合した大規模イベントで、monomの第1弾、第2弾のプロダクトを発表することになっていたからです。

 それが、「iDoll」(アイドール)「Memory Clock」(メモリークロック)でした。



上「iDoll」(2015)/下「Memory Clock」(2015)
monom発足と同時に発表したふたつのプロダクト。いずれもプロトタイプのみで
商品化には至らなかったが、コンセプトは高く評価された。


 「iDoll」を共同で開発したのは、先にも紹介したユカイ工学。僕が真っ先に、何か一緒にやりませんか、と社長に会いに行った会社です。

 「iDoll」は、手のひらサイズのロボットドールです。外側と中身のソフトウェアを変えれば、いろんなキャラクターのロボットドールになるというものでした。

 使う人の声に反応して、音声と動きでコミュニケーションをしてくれる、今でいうスマートスピーカーに動くロボットを組み合わせたようなものです。当時すでにアメリカでは、アマゾン・エコーが発売されていました。

 週1でミーティングをしましょう、とはじまったユカイ工学との共同開発でしたが、実は3回目の打ち合わせのときに、すでに「iDoll」の企画は出ていました。

 当時はソフトバンクの「Pepper」などのコミュニケーションロボットが出はじめた頃だったのですが、これからはもっとパーソナルなコミュニケーションロボットが求められるようになっていくのではないか、というところから発想したものです。

 すると、たまたまその次の月に、ユカイ工学にこうしたロボットの機構開発を得意とするエンジニアが入社してきました。そこからはトントン拍子でした。

 サウス・バイ・サウスウエストでの発表後、さまざまなキャラクターへの展開が可能な手のひらサイズのロボット、ということで大きな話題になりました。


 ただ、結果的に「iDoll」はプロトタイプはつくったものの、商品化には至りませんでした。

 キャラクターの権利関係などが複雑だったこともありましたが、どうしても単価が高くなる、ということがいちばんの課題でした。

 10万円台にまで下げることも可能でしたが、それだと届けたい人たちに届かない。一部のお金を持っている熱狂的なファンだけが買うものになってしまう。

 それは、世の中に向けた新しい提案としては弱いのではないかと感じ、いったん開発を止めることにしたのです。

 もともと、まずは10つくろう、失敗があるのは当然で、それを学びにしよう、と考えていたので、第1弾が商品化されなかったショックはありましたが、無理はしませんでした。

 なによりmonomをはじめるとき、何かかたちにして見せないと、と思っていたので、その意味で、最初はとにかくスピードが重要でした。

 やってみないとはじまらないのです。実際、「iDoll」の開発や商品化のチャレンジを通して、いろんな学びを得ることができたと思っています。


失敗は必ず次に生かす。

 もうひとつの「Memory Clock」は、壁掛け時計にスマホなどで撮った写真が映し出される、というものです。

 これは「家族」をテーマに企画したものです。スマホが普及し写真を撮る機会は増えましたが、一方で、家族で写真を見返す機会は減っている、と感じていたのがきっかけでした。

 その原因としては、写真をプリントしなくなったり、写真の枚数が多すぎたり、そして、個人のスマホの中に写真がある場合、家族みんなで一緒に見るには画面が小さすぎるということがあげられます。

 そこで、家族みんなが見るリビングの壁掛け時計に、ふとした拍子に家族の写真が映し出されたら、そして、その写真が撮られた日付と同じ日に映し出されたら、一枚一枚の写真に日付や時間という見返す意味が生まれるのではと考えました。

 「Memory Clock」は、こちらも先に紹介したイメージソースと共同で開発したものです。

 コンセプトの面白さは、各方面から評価してもらいましたが、「Memory Clock」もプロトタイプのみで、商品化には至りませんでした。

 課題はやはり価格でした。壁掛け時計とはいえ、中身としてはパソコンに近いのです。そうすると、価格がどうしても高くなってしまう。

 ハウスメーカーなどの企業から、コラボレーションしたいという働きかけもありましたが、価格面で折り合いがつきませんでした。

 大きなメーカーが、巨大資本を投下すれば、より安くできたのかもしれません。

 ただ、モノづくりが本業ではない博報堂には、いきなりそれは難しい。このことは、ひとつの学びでした。

 また、プロトタイプの段階で、ムービーやウェブサイトをつくって発表する、というプロモーション方法についても、このときに学びました。

 新しいものをつくるとき、市場性を測ることは、とても難しいものがあります。

 調査をすることはできますが、それだけでははっきりしません。まったく新しい機能や体験のものだと特に確かめることは簡単ではない。

 それよりも、まずは発表してしまって共感する人たちを集め、それを追い風にすることによって、市場性を実感しながら商品化に進むことができる、ということに気づいていきました。

 とにかく共感する人を増やしていく、巻き込んでいく、ということです。

 こうした一連の学びが、次の「Pechat」(ペチャット)に結実していくのです。


※次回「失敗したときのことを綿密に考える。」は5月21日(火)更新予定です。


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会社を使い倒せ! (ShoPro Books)

小野 直紀
小学館集英社プロダクション
2018-12-20

この連載について

初回を読む
会社を使い倒せ!

小野直紀

会社で「自分のやりたいことができない」と感じたら、どうしますか? 広告会社の博報堂に勤めながら「モノづくりをしたい」と考えた小野直紀さんは、辞めて転職するのでも、起業するのでもなく、あえて会社に残ることで、人・資金・ネットワークなど、...もっと読む

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