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モスクワの飛行場で、にっちもさっちもいかなくなっていた元CIA職員スノーデンが、ロシアに亡命申請をしたようだ。
2週間ほど前、プーチン大統領が、アメリカに害を及ぼすような行動を止める場合に限って、亡命を許可すると言ったため、スノーデンは亡命申請を引っ込めた。しかし、それ以後、20ヵ国以上に亡命を申請をしたものの、どの国もアメリカに遠慮して引き受けてくれず、ここに至って、ロシアが最後の切り札となってしまったらしい。
つまり、アメリカというのは、未だに世界に大いなる覇を唱えているわけである。このたびのスノーデン事件は、アメリカの圧力に屈しない国が、ロシアだけであったという、かなりわかりやすい構図になっている。
「アメリカ=独裁国家、ロシア=民主国家」のような構図
アメリカは今、かなり怒っているようだ。今月12日、スノーデンが、モスクワのトランジットルームに国際人権団体の代表らを招いて記者会見をしたからだ。これは、まさにスノーデンの広報活動に等しく、アメリカが怒っているのは、スノーデン本人に対しては元より、彼にその機会を与えたロシア当局に対してである。
オバマ大統領は、そのあと個人的に、プーチン大統領に電話をしたらしい。しかし、もちろんプーチン大統領は、今のところ、スノーデンのアメリカ送還を拒否しているという。そうでなくても、アメリカとロシアの仲は冷え込んでいた。つまり、現在は、スノーデン事件以前よりもっと険悪な状態になっているということだ。
ただ、この際、プーチン大統領が、少しアメリカを怒らせたのは分かるとしても、一介の元CIA職員のために、決定的にアメリカとの関係を悪化させる気になっているとは到底思えない。ひょっとすると、まずはスノーデンの持つICTの知識を吸い上げ、そのあと、何らかの理由なり条件なりを付けて、アメリカに送還する可能性もあるのではないだろうか。
いずれにしても、スノーデンがロシアという、人権抑圧で有名な国に亡命するとなれば、なんとも皮肉な話だ。アメリカに返すと、死刑になる恐れがあるので、ロシアは、人道的な見地によりスノーデンの亡命を許可するのである。こうなると、まるでアメリカが独裁国家で、ロシアが人権重視の民主国家のようだ。アメリカによって、パスポートを無効にされてしまったスノーデンは、孤独であり、殺生与奪の権利をプーチン大統領に握られている。
情報機関の仕事は、他国の情報を集めながら、良い外交関係を保つこと
さて、ドイツでは、スノーデンがNSA(米国安全保障局)の内情を暴露して以来、毎日のように、大騒ぎが続いている。アメリカが、同盟国であるEUの国々、特にドイツ政府の情報を念入りにスパイしていたばかりでなく、一般国民の情報もすべて把握しているということがスノーデンのお蔭で明るみに出て、政府は驚き、野党は憤慨している、というのがオフィシャルな筋書きだが、何だか変だ。今までドイツの政治家がそれを知らなかったはずがない。
最近、第二ドイツテレビZDFが放映した、情報関係の専門家のインタビューによると、ヨーロッパの各国は、アメリカのNSAの展開している情報収集の規模について、すでに1998年にはかなり詳しく知っていたという。EU議会では、それに伴って行われている産業スパイの問題が、公式に取り上げられたこともあるそうだ。
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