タモリの最高傑作「四カ国語麻雀」
なにやら4人の男が卓を囲み麻雀を楽しんでいる声が聴こえる。
よく聴くと、その4人は中国人、韓国人、アメリカ人、ベトナム人といった外国人のようだ。各国別々の言葉が飛び交う中、対極も終盤。中国人がテンパイになった様子。「リーチ」と牌を捨てると、すかさず韓国人が「ロン」。
「ロン?」と訝しむ中国人を無視し、役を指折り挙げ点数を数えていく韓国人。
「タン、ミノ、カルビ、クッパ、ヌンチャク……、ハスミカ」
これに対し、「チョンボ」ではないかとクレームを入れる中国人。他のふたりも同調すると、韓国人が激昂する。
「チョンボ? ペノンソンチョンボゲンゴスミダ!」
もちろん、この4人の会話すべてがデタラメな外国語で成り立っている。その4人をたったひとりで演じているのがタモリである。
そんな大ゲンカを後ろで見ていたひとりの日本人が間に入ってくる。
「東・西・南・北というひとつの異なった方向性に育った、土着の民族の思想がこのような限界状況の中で複雑に排他的実存として交錯する場合に視野の狭窄という怒りを伴って極端に発露する……」
誰あろう寺山修司である。もちろん演じているのはやはりタモリ。難しい言い回しだがその実、内容は何もない。この仲裁に入るのが田中角栄や昭和天皇の場合もあるが、いずれにしても、これによりさらにその場が混乱し、乱闘騒ぎになってしまうのだ。
これこそがタモリの伝説的密室芸「四カ国語麻雀」である。
ハナモゲラ語の誕生
こうしたタモリの使うデタラメな言葉は「ハナモゲラ語」と呼ばれた。ジャズバンド・山下洋輔トリオの周辺で流行していたものを赤塚不二夫らのリクエストに応じてタモリが完成させたものである。
タモリは幼少時、好んでラジオを聴いていた。落語、講談、浪花節なども聴いたが、なにより熱心に耳を傾けたのは、九州という土地柄受信できていたラジオの米軍放送や北京放送だった。もちろん言葉の意味はわからない。しかしその言語のリズムにおかしみを感じて惹かれていた。
中学の頃は毎日のように、教会に通っていた。台風の日でさえも教会を訪れ、牧師の話に耳を傾けていたため「アナタハ敬虔ナ人デス」と牧師から洗礼を勧められるほどだった。しかしタモリが数年に亘り教会に通っていたのは、信仰心があったからではない。ただ単に、牧師の口調が面白かったのだ。
外国人の、しかも牧師特有の片言の日本語。当時でも日常的にはあまり使われない「アマツサエ」「ナカンズク」などの単語が織り交ぜられた仰々しい口調が、タモリにはとてもおかしかった。キリストの教えという「思想」や「意味」ではなく、ここでも、言葉の響きや口調のおかしみを味わっていたのだ。
タモリは言葉を乱しているのではない。壊しているのだ
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