もしこの人と許されぬ関係になったら……
新井見枝香(以下、新井) この人たち(『東京パパ友ラブストーリー』の明人と豪)は、男なら誰でもいいってわけではないでしょう? 相手がたまたま男だったってわけで。そこに夢があって。そうじゃない人たちもいるでしょう。「男でないとダメだ」って、途中で気付くこともある?
樋口毅宏(以下、樋口) 結婚後に気付く人もいるって聞く。吉本ばななの『キッチン』では、主人公のお父さんが、大好きな妻が亡くなった後、性転換するし。
新井 そうかあ。
樋口 僕の素養というか、自分でも気付かないところでゲイカルチャーに親しんできた。初めて買ったレコードはWHAM!の「ケアレス・ウィスパー」だし。『ロッキー3』を観て、学生のときに古典として竹宮惠子の『風と木の詩』を読み、でも同じ頃大ヒットしていた映画『二十歳の微熱』はよくわからず、『オール・アバウト・マイ・マザー』はもっとわからず。残念なぐらいセンスねえな。
あるとき町山智浩さんに「ペドロ・アルモドバルわかります?」って聞いたら、「わからない」って。「町山さんでもかー」って。
でもね、俺2010年代のベストムービー、『私はロランス』なの。フランスのグザヴィエ・ドランが製作・監督・脚本、本人もチョイ役で出ている。当時彼は23歳。天才でゲイでイケメンでマゾでマザコン。おまえみんな持ってるな! 主人公に完全に感情移入して観ていた。映画で3時間あってもいいのは『ゴッドファーザー』と『パート2』と『ベン・ハー』とこれだけ!
でも自分の中にもそういう感性があるんだなあって。京都に住んでいたとき、仲良くしていたパパ友がいて、「もしこの人と許されぬ関係になったら?」って想像して。作家はみんなそうだと思うけど、自分の中のデーモンの部分を働かせるので。それでメモを書きためて1冊の本になった。
新井 明人は建築家だけどイクメンを優先させて、豪は画家になりたかったけど家業のファンドマネージメント会社を継いで、ふたりともそれぞれ何かをあきらめていて、そういう部分があったから惹かれ合っていったのかなあって。
樋口 なんだろうね、お互いを理解するというか、わかりあいたい、わかりあうということで、行為に及んでいくからね。
むかしタモリさんも世に送り出してくれた恩人の赤塚不二夫先生と、「俺らこんなに仲がいいし、理解しあっているから、セックスもできるに違いない」って裸になって同衾してあれこれやってみたんだけど、お互いぴくりともしなかったという。こんなに精神的に理解しあっていても、からだは別なのかもしれない。
新井 男の人は性欲から友情に発展しない?
樋口 個人差があると思う。俺が働いていたコアマガジンでは、「女が大好きだけど、男も嗜む程度は」って人が結構いたから。
衆道は日本人の文化というか伝統だから。戦国時代の武将はみんな男とヤッていたから。ノンケだったのは秀吉ぐらい? だから「あいつ変わってんな-」「女としかヤラないんだって」「人生の楽しみの半分損してるわ」「だから朝鮮出兵してんだよ」って言われてたと思うよ。
何年前かな、武田信玄が春日源助に宛てたラブレターが発掘されたでしょう。「男はおまえだけだから。確かにおまえの言うように、弥七郎を誘ったけど、相手にされなかったから。ヤッてないから。だからもう怒らないで」って。
この100年ぐらいでがらっと変わった
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