善かれと思ってやったことが裏目に出た
樋口毅宏(以下、樋口) で、僕はむかしからそうなんだけど、元編集者ということもあり、エバンジェストの気があるため、新井さんみたいな面白い人を世に送り出したいと思って、当時cakesの編集者だった中島さんを紹介したんですよ。「新井さんに原稿書かせたら面白いよ」って。すぐ終わっちゃったんだけど。
新井見枝香(以下、新井) そうですね。小説をフィクションで紹介するっていう難しいことをやっちゃったので。
樋口 素人が高度なことやったねえ。
新井 ナカジ(※中島さんの愛称)とすごい険悪になって。
樋口 あんなに一時、「ナカジいい、ナカジいい♡」って言ってたのに、男と女の仲になる前に、編集者と書き手の仲になって関係悪くなっちゃったんだ。
新井 すごい厳しいんだもん。「じゃあもうやめようよ!」ってキレ返して。でもいま読み返すと、よく書いてるなあと思うけど。
樋口 で、その後、新井さんがアルバイトから社員になるって話が持ち上がって。当時三省堂はバイトから社員になるとき、店を異動しなければならなかった。で、新井さんもそれはイヤだって聞いたから、俺のツイッターを使って、「どうか三省堂書店の偉い方、新井さんが有楽町店に残ったままバイトから社員にして下さい。これは僕だけでなく、他の作家もそう望んでいます」って連ツイしたら、かえって問題になっちゃったの。
新井 そうだ、そうだ、そうだ。
樋口 「社員になれなくなったらどうするんだ」「すいません!」って。まあ僕はほんとこういうことが多くて。善かれと思ってやったことが裏目に出て相手怒っちゃうっていう。でも結局、三省堂書店初の——(かずふみ君乱入)どうした、できたのお? あ、アンパンマンが回ってるぅ。おまえお客さんに後ろを向いて。デカ頭で、これ天パーなんです。樋口家はね、僕も含めて全員天パーなんですよ。兄弟、従兄弟、甥っ子姪っ子。だからね、天パーじゃないのが生まれたらそれは樋口ではないっていう。
で、話戻りますが、新井さんが三省堂の長い歴史において、アルバイトが同じ店で社員になった、ただひとりの書店員なの。
新井 そうだねえ。
樋口 どんどん思い出してきた。当時は僕も気楽な身ですから、アポも取らずに、いつ行っても彼女は好意的に迎えてくれて。控え室で本にサインをしながらバカ話。他の作家の悪口。「〇〇さん、担当とヤッちゃったって」とか。店長さんは笑うのを我慢しつつ聞いてないふりをしてくれた。ありがたかった。
TVディレクターから「どんな方ですか」と聞かれて
樋口 それでまた新井さんすげえなと思ったのは、「頭来ちゃってさあ、伊集院静さんのとこに電話してサイン会やってくれるって話ついたのに、版元がカンカンなの」。そりゃそうだろ。新刊出した版元はサイン会やるならこことここって決めてるのに、あんたが先生本人に直接申し込んでんだもん。覚えてる?
新井 思い出してきた。
樋口 有楽町店があなた目当てにきた作家のサインの宝庫に。
新井 うん。そろそろ貴公の本の話をしないか。
樋口 (無視して)そんで新井さんその後池袋に三省堂ができてそっち移って、俺も結婚して子どもできて京都に引っ越して。2年半経ってこっち戻ってきて池袋のお店に顔を出したら、「とっくにいないですよ」って言われて。あなたにメールしたら「いま本部で、書店員じゃないんだよ。仕事がつまらないよ-」って。「あらまあ、あなたエラくなったようだけど、向いてないことをしているねえ」って。
いまは現場に戻って、文庫売り場担当なんだよね?
新井 それで私がフジテレビの「セブンルール」に出たとき、樋口さんに来てもらった。
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