可口可楽を神無月の夜に買いにゆくそこかしこに咲く可口可楽の花
その屋根付き橋を初めて通ったのは、十月十日だった。
誕生日だった。
死のうと思って。
ふさわしい場所を探していて、力尽きそうになった時に見つけた場所だった。
家から自転車で行ける最も遠い場所だった。
山の麓で。
わたしは中学生だった。きついイジメと闘うことも無視することも出来ずに。消えたかった。
自転車に乗ってコーラだけ、持ってきた。
屋根付き橋の中は安全だった。四角い胎内みたいで。すぐ下からザザーと急流の音が聞こえてきたけれど。中は完璧に安全だった。
わたしは、癒されるのを感じた。心にエネルギーがチャージされ、あふれるのを実感した。
持ってきたコーラを飲んだ。シュワシュワして。心の傷が、痛みながら消毒された。
わたしは屋根付き橋から出た。体が生きたがっている。だから、帰宅した。
明け方だったが玄関の鍵は開いていて、父も母も起きていた。母が用意してくれたクラムチャウダーを口にした。この世で一番好きなものだった。
わたしは両足の膝から下が血まみれだった。母がオキシドールとガーゼで消毒してくれた。父はリビングで、きのうの新聞を読んでいた。
一人っ子のわたしが死ななくて良かったと、大人になって思った。わたしは、心療科の医師になった。
あの屋根付き橋にお礼を言いに行きたいと思い、夏休みに帰省した。母の自転車を借りてコーラだけ持って、あの時と同じように夕方に家を出た。
屋根付き橋は探せなかった。
帰宅すると、母がクラムチャウダーを用意してくれていた。父はリビングで、今日の新聞を読んでいた。
CO2の抜けたコーラはざわめきを失ってH2Oに憧れる