売れるには理由がある

なぜ髭男爵は「一発屋芸人」として再生できたのか?

本日、3月26日発売の「てれびのスキマ」こと戸部田誠さんの新刊『売れるには理由がある』。芸人たちをブレイクさせた「出会い」と「チャンス」を描いた、この本の帯にコメントを寄せているのが「お笑い芸人一の文才」とも言われる髭男爵・山田ルイ53世さん。「ルネッサーンス!!」で一世を風靡した髭男爵は、なぜ「キング・オブ・一発屋芸人」として再生することができたのか――?

「ルネッサーンス!!」

シルクハットに燕尾服という「貴族」風の出で立ちの髭の男・山田ルイ53世が、緑色の服装で外向きにカールした髪型の「召使い」風の男・ひぐち君を引き連れやってくる。ふたりはワイングラスを手に持っている。

「ルネッサーンス!!」

山田は笑顔で、ひぐちは無表情のままグラスを合わせると、山田が「貴族のお漫才 『庶民の少年にトランペットを買ってあ~げる』の巻」とタイトルを重厚な声で宣言していく。

少年に扮したひぐち君はショーウインドーを物ほしそうに見ている。通りかかった男爵は「いつもトランペットを見ておるが、音楽が好きなのかい?」と声をかけ「おじさんが買ってあげよう」と言うと、少年が「えっ、ホンマでっか?」とおっさん口調で返す。

「いや、お前、おっさんやないか~い!」

ツッコミながら、ふたりは再び「チーン」とグラスを合わせ乾杯した。さらに「もう1個ほしかったんだ」「いや、もうもっとんのか~い」「雨の日用の」「そんなんないわ~い」と矢継ぎ早にリズム良くグラスが重ねられていく。

「母さんが病気なんだ」

一転して神妙な面持ちで言う少年に男爵は表情を変える。

「事情が変わった」

だが、少年はボケ続け、加速度的にグラスは響き合っていくのだ。これが髭男爵の「貴族のお漫才」である。最後に男爵は観客に向かって問う。

「逆に聞こう。何を真面目に見ている?」

「貴族」という「皮」をかぶって大ブレイク

「お前ら、髭男爵なのに、“髭”でも“男爵”でもねーじゃねーか!」

あるテレビ番組に出演した際、司会のくりぃむしちゅー・上田晋也にそうイジられた。確かにその頃、彼らは普通の風貌でネタをやっていた。それはそうだ。何しろ、「髭男爵」という名前は自分で考えたものではなかったからだ。

もともとはトリオだったがひとりが抜けてコンビになった。その抜けたひとりがトリオを組む前から使っていた名前だったのだ。彼が抜けてもそのままコンビ名として使っていたが、名が体をあらわしていなかった。ならば、合わせばいい。段々と山田は髭を生やし、男爵風の衣装を身に着け、「貴族」キャラという「皮」をかぶるようになっていった。

それに伴い、ネタの内容も「サーベル漫才」「バルコニー漫才」「チェス漫才」と変遷していき、遂に「乾杯ネタ」に行き着いたのだ。

髭男爵が「乾杯ネタ」を初めて行ったのは2004年。

相方のひぐちは「最初に山田に提案された時は、『こんなネタ、怒られるだろ!』と大反対した。だってツッコミが“ワイングラスで乾杯”ですよ?」【※1】と述懐する。山田も「若干の背徳感、罪悪感はあった」【※1】と告白する。

キャラ漫才の皮を被っているが、その実、正統派漫才を皮肉る漫才批評的な側面があるネタだからだ。だが、同時に「誰もやったことがないネタ」ができたという高揚感があった。実際、ライブでは大ウケ。やがて進化したこの「お漫才」で2008年頃大ブレイクを果たすのだ。

そして「一発屋芸人」へ…

巷にはなりきりコスプレ衣装があふれ、忘年会や新年会などいたるところで「ルネッサーンス!!」という乾杯の音頭が鳴り響いた。

けれど強烈なキャラはその分、劇薬だ。消費されるスピードも早い。翌年には急速にテレビでの露出は減っていき、いわゆる「一発屋芸人」と呼ばれるようになった。

一発屋芸人とは言うまでもなく一世を風靡したギャグを持ちながらも、一般的にはテレビから「消えた」と言われる芸人である。

この頃、『エンタの神様』(日本テレビ)や『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)などの影響でショートネタブーム。短い時間でインパクトを残す近道は強いキャラをつけることだった。だから、数多くの「一発屋芸人」が生まれていった。

一発屋の芸はバカにされがちだ。なぜなら前述のように忘年会などで真似をするのが容易だからだ。

だが、それは「レトルト食品のようなもの」だと山田は言う。高度にパッケージ化されたとてつもない“発明”なのに、自分で手軽にできてしまう故にリスペクトする人はいない。「俺らの芸はほんまにスゴいねん」と自分で言うのはめちゃめちゃダサいけど、自分だけでも犠牲になろうと思って言う、と前置きした上で山田は言う。

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髭男爵・山田ルイ53世さん、感動の帯コメントも要チェック!!

売れるには理由がある

戸部田 誠,てれびのスキマ,花小金井 正幸
太田出版
2019-03-26

この連載について

初回を読む
売れるには理由がある

てれびのスキマ(戸部田誠)

ツービート、タモリ、ダウンタウン、さまぁ~ず、オードリー、南海キャンディーズ、古坂大魔王(ピコ太郎)……。あの人気芸人たちをブレイクさせた「出会い」と「チャンス」を描いた「てれびのスキマ」こと戸部田誠さんの新刊『売れるには理由がある』...もっと読む

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6manga6kissor6 "一発屋の芸は……「レトルト食品のようなもの」だと山田は言う。高度にパッケージ化されたとてつもない“発明”なのに、自分で手軽にできてしまう故にリスペクトする人はいない。" てれびのスキマ(戸部田誠) @u5u https://t.co/qul0iArzOd 9ヶ月前 replyretweetfavorite

u5u 『売れるには理由がある』試し読み連載、髭男爵編です! 9ヶ月前 replyretweetfavorite