前回の記事では自分がストレスを感じた瞬間をいかに「可視化」するかが重要かを説明しました。今回はそれを使って、ストレスに「どう対処するか」について理解を深めるのがゴールです。
まず最初に触れたいのは、そもそも「ストレスに強い」とはどういうことか、という点です。「あの人メンタル強いよね」といった会話は普段からよくされますが、それは何を指しているのでしょうか。
結論から言うと、「ストレスに強い人」というのは、どんなにタフな状況でも悩んだりしないということでは決してなく、その「対処の仕方を知っている人」です。
この図が示すように、ストレスに強い人でも、タフなストレス状況に置かれれば動揺します。それ自体は人間の「生理反応」なので避けようがない。でも、ストレスに強い人が違うのは「対処法」に長けていることです。
例えば売上規模の大きい重要な顧客からクレームを受けたとき。ストレスに弱い人は、そのクレームの迫力に押されて固まってしまい、適切な対処ができないまま状況を放置して、さらに顧客を怒らせてしまうというのはよく見る光景です。
一方で、ストレスに強い人は、顧客の強いクレームに動揺しつつも、顧客はいったい何に怒っているのかを改めて果敢に聞き出す勇気を持っています。そして、聞き取りを踏まえて課題を整理し、そこから適切な解決策を考えて実行することで、クレームをきっかけに逆に顧客の信頼を高めてしまうことすらあります。
ここで両者を分けているのは、ストレスを感じるか感じないか、ではなく、その状況に対して能動的に対処ができているか、という点になります。
ストレスを感じることからは誰もが逃れられない
さらに印象的なスポーツの例を挙げましょう。前回のラグビーW杯で優勝候補の南アフリカに勝ったラグビー日本代表には、メンタルコーチが帯同していました。
そのメンタルコーチの荒木香織氏は自著(『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』)で、屈強なラグビー選手であっても、試合前に強い恐怖を感じていることに触れています。日本代表のキャプテンとしていつも強いリーダーシップを発揮していたリーチ マイケル選手も、試合を前にして、荒木氏に恐怖と不安をこう吐露していました。
そう言う選手もいました。それも、バックスでなく、果敢に身体を張らなければならないフォワードの選手のなかに。リーチ選手も「怖い」とよく口にしていました。
「どうして怖いんですか?」
私が尋ねると、「相手がでかい」「スピードが速い」「ボールを落としてしまったらどうしようと考えると怖くなる」という答えが返ってきます。
W杯でチームを鼓舞し続けたリーチ選手が、試合前にこれだけ不安を感じていたというのはとても印象的です。彼ほどの選手であっても「ストレスを感じること」それ自体から逃れることはできない。ここでも大切なのは、ストレスを不可避のものとしてきちんと受け止めて、それを前提に本番の試合で高いパフォーマンスにどう繋げていくか、という点だったわけです。