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「西三河の会」であらわになった問題
愛知県の中部「西三河」は自動車産業が盛んでありながら、自然豊かで住み良い地域です。西三河の工業出荷額は約23兆円、我が国2位の神奈川県の約18兆円を遥かにしのぎます。
各自治体は、それぞれ自分たちの市町を良くするために努力をしています。ところが、各市町は独自性を出すのに一生懸命で、隣の市町と連携するという発想は生まれにくかったようです。そんな中、「西三河防災減災連携研究会」が発足しました。9市1町(岡崎市、碧南市、刈谷市、豊田市、安城市、西尾市、知立市、高浜市、みよし市、幸田町)の副市長・副町長を名古屋大学に招き、防災対策を検証するワークショップをやってみました。そこで、驚くべきことが分かりました。
最初に各市町の地図を使って、それぞれに都市計画マスタープランを紹介してもらいました。副市長・副町長たちは「うちの街は中心に市街地があり、周辺にグリーンベルトがあって……」などと「我が街」の自慢話をします。その後、各市町のマスタープランを、ジグソーパズルのピースのように組み合わせて、西三河全体の地図をつくってみました。
全体で見ると最悪の計画になっていました。隣同士の市町で矛盾だらけの独りよがりの計画ばかりでした。特に酷かったのは、緊急輸送道路が市町の境界でつながっていなかったことです。
市役所と消防や病院、避難所などを結ぶ緊急輸送道路は、高速道路や国道、県道などから隣の市町の道を通る場合があります。災害は市町の境界など関係なく起こるもの。消防や救急は広域的な活動もしているのに、こんな道路でどう動けるのでしょうか。
市の境に住んでいる人は、自分の家のすぐ近くに隣の市の避難所があっても、市町村連携がないと、危険を冒して遠い避難所に行かなければなりません。これは2015年の鬼怒川決壊のときに、茨城県常総市の避難で浮き彫りになった問題です。
緊急輸送道路は従来、人の命に関わることを優先していました。このため、製油所からタンクローリーが出る道や、発電所につながる道は市町村道の取り付け道路で、当然、緊急輸送道路になっていません。しかし、製油所や発電所が被災したら、それを直すための道路もつながっていないと結局、人の命に関わります。また、内陸側の豊田市にはご存知のように日本一の自動車工場群があります。しかし、海辺の市の港湾が津波で被災をしたら、物資や燃料を運んでもらうことはできません。生命だけでなく生業も守らなければ生活できないのです。
こうした実態があらわになり、副市長たちは絶句してしまいました。縦割りの弊害は歴然です。こういった市町村間連携は、本来は都道府県や国交省の地方整備局が調整すべきことなのですが、地方自治の流れもあり、調整しにくくなっているようです。地方の出先機関に出向してくる中央官僚は2年ぐらいで東京に帰りますから、短期間に解決できることしかやれないという側面もあります。
西三河の場合は、一番小さな町が「自分たちだけではとてもやれないから助けてほしい」「皆で一緒にやりましょう」と呼び掛けてくれました。自動車産業は各市町に工場が分散しています。ライバル意識があると言われる岡崎市と豊田市も、最後には握手をしてくれ、10市町の連携ができました。同じ船に乗っているという意識で、連携が実現できたのです。私たち大学チームはその仲人役を務めました。
緊急輸送道路などの問題は、今では地方整備局や県も交えて見直しの議論が始まっています。平時は司々が判断する「部分最適化」が効率的ですが、災害時は自治体の内部でも総務や企画、防災、土木、建築、上下水道、保健、福祉など、部署を超えた連携が必要です。大規模災害に対しては、当事者意識を持って、国、都道府県、市町村、産業を超えて、俯瞰的に物事を考える「全体最適化」の視点が欠かせません。
組織には部分最適も全体最適も必要です。この会では部分最適と全体最適を行ったり来たりするような議論が展開されています。
70組織の「ホンネの会」が始まる
似たような横断的な集まりとして「ホンネの会」というのを始めました。
初めは私を含め、飲んだくれの仲間4人での飲み会でした。製造業、電力、ガスの防災担当と私です。個々には昔からそれなりの付き合いがありましたが、一度みんなで飲み会をしてみました。ずいぶん、お酒が進んだところで一人が「実は……」と本音の話をし始めました。すると別の一人が「実はうちも全然ダメ」などと言い出したのです。
何がダメかというと、製造業が「電気が止まっても、ガスで発電できるから大丈夫」と言う。ガス会社は「電気がないとガスはつくれない」と言います。しかし電力は「水がないと全部だめ……」と白状します。「でもこういうコトってシラフでは言えないよね」といった具合です。
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