やれないことは言えない」お役人

国民の半数が被災者になる可能性がある南海トラフ大地震。それは「来るかもしれない」のではなくて、「必ず来る」。関東大震災の火災、阪神・淡路大震災の家屋倒壊、東日本大震災の津波。その三つを同時に経験する可能性がある。首都圏を襲う大地震も懸念される。
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形だけの「BCP」がダメな理由

 企業や役所では、BCP(事業継続計画)という言葉が流行りになっています。災害や大火災などの緊急事態に遭遇したとき、事業の継続や早期復旧を図るための段取りを日ごろから決めておきましょう、ということです。考え方はよいのですが、問題も多くあります。

「BCPをつくっていますか」とアンケートを取れば、多くの企業がイエスと答えるでしょう。しかし、中身を見ると十分な計画ではないことが多くあります。
 ある大手のメーカーが「1カ月で生産を再開する」とするBCPをつくったとします。それは物流もエネルギーも、水も部品調達も生きていることが前提です。組み立て開始が1カ月後であれば、部品をつくる下請けはもっと早く生産を再開していないといけません。
 しかし、そんなに早くライフラインや道路が復旧できているでしょうか。部品を納入する会社がすべて生き残っていると言えるでしょうか。そうは言い切れないと思われます。
 下請けも「できていますね」というアンケートに対しては、対策が十分ではなくても、叱られないように「できています」と答えざるを得ないだろうと想像できます。
 本来、アンケートは「災害時に困る問題点を事前に把握し対策したいので、正直にできていないことを教えてください。対策ができていなければできるように支援しますから」でなければ本音は出てきません。そもそもの質問の仕方で失敗していると思います。

 BCPは具合の悪いところを見つけて改善するためのもの。褒められるためのものではありません。企業の部品調達先に想定外をなくさせ、対策を促すためにつくるものです。企業やサプライチェーンで起こり得ることを、想像力を最大限に働かせてつくらなければなりません。その際には、担当者の本気度が問われます。
 ですが、実態は幹部や得意先に「よくできている」と見せるためのものになっていることが多いようです。「社長や株主に報告するため」のBCPやアンケートばかりです。
「大企業はみんなBCPをつくっている。問題は中小企業だ」とよく聞きますが、実態はそうとは思えません。
 本気になってチェックしていないのは、みんな一緒です。東京のコンサルタントに任せて、全国どこの企業も同じようなBCPばかりになっています。BCP担当者の中には自宅の家具止めもしていない人も多いです。万一、電気や水、道路、通信が途絶えても最低限の機能を残し、早期に回復できる方策を考えておく必要があります。

 私たちは「誰かがうまくやってくれている」と、見たくないことに目をつぶり、人任せにして日々を過ごしています。
 皆、当事者意識がなくなり、本気で自分たちの会社を守ろうという人が減ってしまったサラリーマン社会の弊害です。短期的な成果が求められるサラリーマン社長や退職金をもらった役員、もうすぐ退職金がもらえる人がBCPづくりを指示しています。
 そんなのはダメです。
 BCPは、若手社員や新入社員と一緒につくってください。彼らはこれから必ず被災して、重大な影響を受けるはずですから。彼らが本気になってBCPに取り組めるような企業文化にしなければなりません。

最悪の影響を全部調べる

 例えば2016年に北海道、東北を襲った台風による農業被害で、ポテトチップスが一時期食べられなくなりました。自動車などの輸送機械メーカーに比べ、食品メーカーは非常に数が多く、1社ごとのシェアはあまり大きくありません。しかも生産から原料調達、物流まで互いにもたれ合っているので、全体像が分かりにくい。だから、どこか1カ所のサプライヤーがダメになったときにどうなるか、影響を調べることが難しくなっています。そのリスクが、たった一つの台風であらわになりました。

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次の震災について本当のことを話してみよう。

福和伸夫

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