南海キャンディーズが切り開いた新しい可能性
大きく両手を広げて上げながら舞台に入ってくるふたり。マイクの前に立つと、それぞれがポーズを決め、「どーもー南海キャンディーズでーす」と山里亮太が言うと、しずちゃんこと山崎静代が指でつくった拳銃で「バン!」と撃つ仕草。
「セクシーすぎてごめんなさいねえ」
山里が言うと、しずちゃんは彼の背後に隠れ、いい女風に顔を出す。それに苛立ったように山里は観客に向かって言う。
「その怒りの拳は日本の政治にぶつけてください!」
やりたいことがあると切り出す山里に、しずちゃんがすかさず「女の子にイタズラ?」と言えば、山里は「うーん、この顔にそれはリアルすぎるよ」と返す。医者になりたいという山里にしずちゃんは「じゃあ、山ちゃんお医者さんやって」と提案。
「私、火を怖がるサイやるから」
唖然としながらも「メス」と手術コントを始めるも、横ではしずちゃんはひたすらサイのモノマネ。
「ダメだ、俺、こんな状況生まれて初めてだ!」
その後も、トリッキーなボケを繰り返すしずちゃんに「おーい、しずちゃん、中盤でトリッキーなことするなよ」「ダメだ、俺、こんなじゃじゃ馬扱えないよ!」と山里独特の語彙でツッコんでいく。そして、トリッキーさが頂点に達したところで「もう!」と山里がシンプルにツッコみ、そのままふたりで静かに一礼して帰っていく。
これが男女コンビの新しい可能性を切り開いた南海キャンディーズによる漫才である。
笑いの才能がなかったら死んだほうがマシ
「標準語のツッコミは山里亮太以前以後に分けられると思う」【※1】とオードリー若林が評するとおり、山里の否定や注意を越えたワードセンスが冴え渡るツッコミは、革命的だった。それを最大限に引き立てているのが、唯一無二であるしずちゃんのキャラクターであることは疑いがない。
そもそもふたりが組んだのは、山里のある姑息な“計略”によってだった。二度のコンビ解散を経験し、「イタリア人」という名のピン芸人として活動していた山里は限界を感じ、相方を探していた。候補はすぐに見つかった。ライバルの少ない男女コンビにしたいと思っていた彼の目に飛び込んできたのが、個性むき出しの「大女」だったのだ。
だが、彼女は当時別のコンビを組んでいた。そこで、山里は彼女に関する情報を集めていった。彼女の好きなものをリサーチし、話したときにさりげなくその話題を出す。すると、センスが合うと思ってくれるはずだと。そして、自分の長所と彼女の特長をノートに書き連ね分析し、自分なら彼女の良さをこんなに引き出せるとネタを書き、しずちゃんにプレゼンした。その執念が実ってしずちゃんに元のコンビを解消させ、自分とコンビを組ませたのだ。
ケンドーコバヤシから、「笑いの才能がなかったら死んだほうがマシ。笑いの才能だけが飛び抜けている」【※2】と人間性を酷評されつつ、最大級の“称賛”を浴びる山里らしいエピソードだ。
「自分は、なぜ相方にしずちゃんを選んだのか?」
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