九螺ささら「きえもの」

九螺ささら「きえもの」【エビフライ】

ミケネコ、アメリカンショートヘアー。毛のないエジプト猫のシッポにはパン粉をやや多めにつけて。
わたしはシッポを揚げている。
――電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!

全身がシッポであるエビフライとは四次元宇宙の端っこの比喩



 同居していた祖母はエビフライをエビフリャーと言った。

 母は大晦日の年越しソバにエビフライをのせた。

「エビ天をのせて。みんなのうちがそうだから」

 そう言っても聞き入れてはもらえなかった。

 定食屋に嫁いで五年で、夫は他界した。

 わたしは二人の子供のシングルマザーとして、舅姑の介護をしながら定食屋を営んだ。

 エビフライ定食が、看板料理だった。

 来る日も来る日も、わたしはエビフライを揚げ続けた。

 エビフライというのは全体が一つのシッポに似ている。

 毎日毎日、わたしはそう感じていた。

 あるとき、やはりエビフライが犬のシッポに見えて、犬の本体はどこだろうと焦って探してしまった。

 町じゅうの犬が、「エビフライと、シッポを失った犬の本体」にしか見えない。

 猫も同様だ。

 わたしは「ペットショップ片倉」に駆け込む。

「お願い。免疫療法って言うの? 嫌と言うほど犬と猫のシッポを見ちゃいたいの」

 わたしは「ペットショップ片倉」の一日店長になった。

 ミケネコ、アメリカンショートヘアー。毛のないエジプト猫のシッポにはパン粉をやや多めにつけて。


 わたしはシッポを揚げている。

 キッチンは香ばしい匂いで充ちている。



生き物の悲しみの昇華儀式として揚げ物はカラッと揚げられてゆく



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新潮社
2018-11-16

この連載について

初回を読む
九螺ささら「きえもの」

九螺ささら /新潮社yom yom編集部

初の著書『神様の住所』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した歌人・九螺ささらによる、短歌と散文が響き合う不思議な読み物。電子雑誌「yomyom」に連載中の人気連載を出張公開!

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