自分が自分でなくなっていく?
心に大きなショックを受けたことが原因で、「思考」「感情」「感覚」がバラバラになり、自分が自分でなくなってしまうような症状に悩まされる人もいます。
□ 人が大勢いるところが苦手、人に見られている感じがする、人から何かされそうで怖い、などの恐怖感が強い
□ ハッと気づくと、記憶が途切れていることがある
□ 寝ているときに金しばりにあったり、幻覚が見える、幻聴が聞こえることがある
感情や感覚が自分から切り離されたような状態になるのは……解離性障害です
「解離性障害」とは、子どものときにたいへんつらい体験をしたことが心の傷となっていて、脳と心と身体とがひとつにまとまった自分ではない、と感じるような症状が出るものです。
たとえば、虐待されて育った、性的虐待を受けた、激しいいじめ、大切な人の死、つらい病気や障害など、過酷な刺激を自分で受けとめきれないような場合、感覚をシャットダウンしてしまうメカニズムが働くのです。これが「解離」です。感覚を遮断してしまわないと、自分自身を保てない、生きていくことができなくなるからです。
つまり、解離は脳がもっている防衛システムのひとつ。障害でも病気でもなく、生存のための適応策です。
しかし、一般的に見ると症状がちょっとオカルトっぽく見えてしまうこともあって、解離に悩んでいる人は自分に起きていることをなかなか口に出せません。もともとつらい思いをかかえているうえに、いま起きていることも人に理解してもらいにくいという、非常につらく心細い状況におかれます。
具体的にどんなことが起きるのでしょうか。
たとえば、ある時期の記憶が抜け落ちていたり、自分のしたことや当時の状況を覚えていなかったりします。これは「解離性健忘」といって、嫌な記憶を失うもの。
自分とは異なる記憶や性格をもつ人格が表に出てくる「解離性同一性障害」。これは、いわゆる多重人格です。その人格が出ているときの記憶はありません。
あるいは、記憶は失われていないけれども、自分が自分でないような感覚、自分の身に起きていることとは感じられないような「離人症」などの症状があります。
解離性障害は、精神科医のもとで、なぜそうした症状が出るようになってしまったのか、その原因を解きほぐすところから、治療していく必要があります。
しかし、簡単に人に話せないからこそ、心の奥底に封印されて解離症状を起こすようになっているわけです。家庭の問題とも深く関わっていることが多いため、精神科医に相談することがむずかしいことも多いのです。
以前は、未成年の解離性障害は、性的虐待や身体的虐待といったトラウマ体験から生じるものがほとんどだと考えられていました。けれども、けっしてそればかりではないということが、近年わかってきました。
外からはそれほど問題なく見える家庭であっても、両親の不和や家族内の対立関係のために、板ばさみのような状態がつづいてきたケース。子どもである自分が、家族のトラブルの犠牲になってきたような場合に、解離が出る人がたいへん増えているのです。
たとえば、幼少時から母親の不満やグチの聞き役となって母親を支えてきた子どもたち、周りの空気を読んで〝いい子〟を演じていることの多い子どもたちが、慢性的なストレスによって心と身体のバランスをくずして、解離を起こしてしまうのです。
こういう人たちは、自分が「安心していられる居場所」がどこにもないと強く感じています。そして、自分のなかで「もう限界だ」という状況が訪れると、脳が自己防衛のためにのシャットダウンをしてしまい、自分でも不可解な症状が出るようになるのです。
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