情報解禁!ということで、実は現在、「わざわざ」のある長野県東御市に新店舗「問tou」をオープンする準備で奔走しています。パンと日用品の店「わざわざ」を営んできて10年が経過し、ただいま11年目になりました。今日は、新店舗をつくった経緯をお話したいと思います。
「わざわざ」じゃやれなかったこと
この連載でも度々書いてきたが、「わざわざ」のスタッフが段々と増えていく中で、社内システムを作って自分の仕事を受け渡していき、社外に出る機会がどんどん増えていった。様々な場所に出かけ、色々な人に会い、会話を重ねるうちに、小売業という業態について思いを巡らせることが多くなっていった。豊かになりどんどんと増える物、減っていく人口。そんな中でこれからの小売はどうあるべきなのか?ということを常々考えるようになったのだ。
店は常に人に物を売りたがっている。そして、人は案外簡単に物を買う。相思相愛のように見えるこの関係は、果たして本当に良好なのか今一度考えてみたい。
人は買ったものを入れるための袋を、家に帰るとそのまま捨てる。口を拭いたり、テーブルを拭くだけで捨てられていくティッシュ。お茶を飲んだら捨てられるペットボトル。1シーズン着て捨てられる服。穴が空いたら捨てられる靴下。部屋に合わなくなった家具を捨て、新しいものを買う。買ったものはやがてゴミになり焼却されたり埋め立てられたり。
わたしは埋め立てられるものを売りたいとは思えない。そういうことならば、できれば買わないでください、と言ってしまう。儲けるためになんでもかんでも売りたいわけではない。わたし達は本当に必要としている人のために、良質なものを集め、手元に届けていきたいのだ。
「わざわざ」はそういう思いで事業を営んできた。だけど、一方で必要に縛られすぎていた。必要なものを必要なだけ誰かに届けるという思いに縛られていた。
世の中には生きるためには必要でないけど、あると暮らしが豊かになるものが沢山ある。空間に流れる音楽、壁に飾った一枚の絵、テーブルに活けた庭の花、人を迎えるために玄関に置いた大きな壺、どこかの海で拾った石。これらは一つも生きていくために必要でない。だけど、わたしにとってはどれもなくてはならないかけがえのない物だったのだ。
わざわざ的でないという領域の話
同じ仕事と言えど、毎日違うことや様々な発見があって、事業の改良や更新など、やることはいくらでもある。店のことだけでなく、経営のこと、雇用のこと、仕事の興味は尽きることがない。だが、10年ほど事業を行なってくるとある程度の「領域」というものは見えてきて、これはわざわざ的ではないというボーダーラインが固まってきた。
これは良いことでもあるし、悪いことでもあると思う。健康的な食品やわたし達が実際使って良かったものを届けるというコンセプトは、明確だしやりがいもある。お客様にも少しずつ認知されてきて、あの店に行けばこんなものがきっとあるだろうという予測もつくようになってきたかもしれない。
だが、先に書いたような、「わざわざ」の枠に入りきらないよい物もあるなという思いが年々強くなっていった。わざわざ的でなくてもいい事やいい物は沢山世の中にあるわけで、それがわざわざ的ではないという理由で事業から排除されてしまうという危機感を持つようになった。思いつく限りのやるべき事業をできないというジレンマに陥ることもしばしばあったのだ。
問touという店を作ることになった
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