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10年間はディズニーの仕事しかできない⁉悲惨な独占契約

ハリウッド流の専門用語ばかりのディズニーとの契約書を解読してわかったのは、とんでもない条件だった・・・。ピクサーはいつになったら利益を出せるようになるのだろうか。
2019年3月15日に発売!『PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話』(文響社)より特別先行掲載!

ちんぷんかんぷんなハリウッド流契約書

 とっかかりはあった。4年近くも前の1991年9月6日にディズニーと合意した制作契約である。

 これを見れば、『トイ・ストーリー』からなにが得られそうなのかはわかるし、その後、ほかの映画にどういう条件が適用されるのかもわかる。

 契約書は12ページ半とごく短かった。これほどややこしくない事案でも契約書は70ページを数えたりするというのに。

 ただ、短いからわかりやすいとはかぎらない。

 実際、意味不明なハリウッドの業界用語が並んでいてわけがわからなかった。「AGRは、WDCの別紙GRPとNP、ならびにその添付書類に基づいて定義し、計算し、定めるものとする」などと書かれているのだ。ちんぷんかんぷんである。

 この契約書を解読しようと頼ったのが、ハリウッドの有名法律事務所ジフレン・ブリッテンハム・ブランカ&フィッシャーのパートナーで、契約交渉にピクサー側弁護士としてかかわったサム・フィッシャーである。

 会ったのは、ビバリーヒルズにほど近いビジネス街の広く上品なオフィスだ。サムは隙のない着こなしと短いひげ、めがねが印象的な人物で、私を歓迎し、できるかぎりの支援を約束してくれた。

 また、聞き上手で、ハリウッドやエンターテイメント系の法律という不可思議な世界を熟知していた。

 サムは、何時間もかけて、この契約書の条項や別紙、添付書類について説明してくれた。

9年間は、ディズニーとの契約に縛られたまま⁉

 契約の対象は映画が3本で、3本目が公開された6カ月後に契約が終了する取り決めとなっている。特にどうということもないように思える定めだが、実際、どのくらいの期間になるのだろうか。

 最初の映画『トイ・ストーリー』は、契約締結から4年とちょっとあとの1995年11月に公開することを目標としている。

 2作目は、蟻の巣を守る昆虫の物語になるらしいが、題名も決まっておらず、制作は始まっていないに等しい。

 だがともかく、ピクサーの状況からして、2作目も『トイ・ストーリー』と同じくらいの期間が必要なはずだ。

 言い換えれば、制作には約4年が必要で1999年の公開となる。

 3作目も同じく4年かかるので、その公開は2003年11月ごろになるだろう(2本を並行して制作できるほどの資源はピクサーにない)。

 ということは、契約が終了するのはその6カ月後、2004年5月となる。つまり、もう9年間、この契約に縛られるわけだ。スタートアップの世界では永遠にも感じられる長い時間である。そう思うと、胃の辺りが重くなった。

 もうひとつ、気になる点があった。

問題だった「独占条項」

 ある段落の最後にさらっと書かれているのだが、ディズニーに提示した映画のアイデアは、却下されたものも含め、契約が終了するまで他社に提示してはならないというのだ。

「これはおかしいでしょう。まったく興味がないと1995年に却下されたアイデアがあったとして、それから10年間、そのアイデアについて、ほかの映画スタジオに話もしてはならないことになってしまいます。
 でも、映画というのは、公開の何年も前に配給会社とアイデアをすり合わせる必要があります。つまり、すばらしい映画のアイデアがあってもディズニーに気に入ってもらえなければ世の中に出せなくなってしまうわけです」

「ええ、それこそが契約の取り決めです。ディズニーの映画に専念しろ、ほかのスタジオの仕事はするなということです。そういう条件だからディズニーはピクサーの映画に多額の資金を投入してくれるわけです」

 であればしかたない。だが、この条項で禁じられているのは、ディズニーに提示し、却下されたアイデアを他社に持っていくことだ。だったらやりようがある。

「この条項があっても、ディズニーに提示せずアイデアを追求することは可能ですよね。そういうアイデアにはこの条項が適用されないので、ほかの配給会社と話をすることもできる、と」

「いいえ、それもできません」

 そう言ってサムが示したのが「独占条項」である。そこには、契約期間中、ピクサーのアニメーション部門は、クリエイティブスタッフも含め、ディズニー専属とすると定められていた。

 これには驚いた。

10年間はディズニーの仕事しかできない

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