晶は再び昔のことを思い出していた。
……千春、アノ頃、私たちは何を夢見てたんだろうね。
一緒に長い間を過ごしていたけど、あなたが目指していたものが結局何なのか、私にはわからなかったよ。
千春は私よりもずっと純粋に、芸人になることを目指していたと思う。 私よりも3つの年上の癖して、私よりもずっと純情でバカだったね。
でもね、あなたと付き合うことで、私はバカが大好きっていうこともわかったよ。
私はお金を稼ぐためにやってたけど、千春はずっと何をどうしたら、面白くなるのかを研究してた様に思う。
私は、まったく興味なかったけどあなたの熱意は一流だったと思うよ。
若い私たちなんて、水着になれば一発でテレビの後ろの方には出れたはずなんだけど、千春は「そんなのやらんでいい!」って言って、自分たちのやり方にこだわっていた。
千春と会って、しばらくの間、いろんな話をした。
主には芸人さんたちの話。
「え? 誰それ?」
でも、私は千春の出す芸人のほとんどを知らなくて、いちいち聞き返してた。
最初は怒ってバカにして、やがて呆れ、最後に千春は「逆におもろいかもな」と言って、そんな私に合わせてくれるようになった。
だから、私たちのネタの設定は、モノを知らない私が千春に聞くことから始まる。
晶「うち、高校行ってへんねん。だから、どんな所か知りたいねん」
慣れない関西弁だけど、これは千春から受けた猛特訓で徐々に身についていった。
千春が言うには、関西弁はスポーツでいうところのユニフォームみたいなもので、その恰好をしているだけで、お笑いという競技に参加していることの意思表示だと言っていた。
今でも、その意味がよくわからない(笑)