昼と夜の境界にいて、夜の闇の声を伝える

坂本龍一さん、大貫妙子さんらから賛辞を送られる音楽家であり、ノンフィクション等の著書を多数持つ文筆家でもある寺尾紗穂さん。大学在学中にAV女優デビュー、日本経新聞社勤務後、夜働く女性たちに関するエッセイや、恋愛・セックスのコラムを執筆する作家の鈴木涼美さん。寺尾さんの集大成となるエッセイ集『彗星の孤独』(スタンド・ブックス)の刊行を記念し、同書に帯コメントを寄せた鈴木さんとの初顔合わせ対談最終回!

作家・社会学者の鈴木涼美さん(左)と音楽家・文筆家の寺尾紗穂さん(右)が異色の初顔合わせ対談!

自分が凡人であることを受け入れられなかった

寺尾 涼美さんが夜の世界に入った経緯って、なんか不思議ですよね。たとえば反抗だったり、貧しさからそっちに行ったりすることはあると思うんですけど、それとは全然違うじゃないですか。

鈴木 家庭に問題があって居場所がないとか、もしくはお金がないとか、親が再婚して家をどうしても出たいとか、そういう人はなんだかんだ夜の世界には多いんです。でも、私の両親は仲がよかったし、のんきな家でのんきに育っていた私はそういうヒリヒリした青春は全然なかった。テレビ番組に出演して、「なぜお金に困ってなかったのにAVに出たんですか?」とか聞かれても、申し訳ないんですけど「あまり理由がなくて」と言っちゃう。私自身、そこまではっきりとした答えをまだ持っていないんです。

寺尾 性格として享楽的というか、華やかなほうが好きなタイプですか?

鈴木 それはありますね。メインの華やかさではなくて、ちょっと退廃的で背徳感があるような華やかさに惹かれます。でも、そんな華やかさに惹かれて『吉原炎上』(1987年/五社英雄監督)を観るのはわかるけど、惹かれたからってAVに出なくてもいいじゃないですか。

寺尾 ははは。

鈴木 娼婦が出てくる映画が淫靡で好きだということと、AVに出ることはまたちょっと違うのかなとは、自分でもわかっているんですけどね。

寺尾 涼美さんはその世界に入って、その世界の現場から自分の体験や周りの女の子たちの声を伝える仕事をしているから、それが本当に使命だったんだと思う。涼美さんは境界にいる。昼と夜の間にいて、夜の闇のほうの声を伝える使命が涼美さんにあるんだなって。

鈴木 そう考えるとすごく綺麗な物語になりますね。

寺尾 そうじゃないと、フラフラっと夜の世界に入って行った理由がわからない。たぶん今とこれからの仕事のために、涼美さんが導かれた気がしてなりません。だって、この経歴はオンリーワンですよね。

鈴木 他にもいらっしゃいますけど、あまり多くはないですね。そういう風に考えたらすごく素敵な感じに響く。今度からそういう風に言おうかな(笑)。

寺尾 境界にいることって、すごく大事なことだと思うんですよね。昼と夜に関わらず、日本人と外国人のハーフとか、白と黒に割り切れないところにいる人は、どちらのよいところも悪いところも見えている。それって、すごく希望に繋がっているものなんじゃないかなと思います。

鈴木 嬉しいです。ありがとうございます。寺尾さんみたいな独特な角度から見てくださる方と話すと、自分の中にない言葉が出てきて面白いです。そうですね、そうだったのかもしれない。

寺尾 境界にいることは、常識で凝り固まっている一つの価値観を崩していく、そんな役割でもあると思います。

鈴木 私自身はそんなたいした人間じゃないというか、普通であることのコンプレックスは強かったんだと思うんです。勉強は普通にはできたけど、美術や音楽が特別に好きでもなかった。やればやった分だけ勉強はできたので、しょうがないからすごく勉強して、勉強だけはやらなくてもできるって顔をしてました。

 でも大学に入ればみんなそれなりに勉強もできて、そんなごまかしもきかなくなりました。それで、若過ぎて、自分が凡人であることをなかなか受け入れられなくて、安易なほうに流れたのかもしれない。若さって、勢いがあって瑞々しくて素晴らしいんだけど、やっぱり安易な方向に行くものです。AVでお金を稼ぐことは精神的な疲労はあるけど、実際には1日の拘束でそれなりのお金が稼げちゃうので、楽で安易なんです。そうすることで、普通の人と少し違う世界を見ているとか、大学とはちょっと違う友達がいるとか、そういうことに価値を見いだしていたんだなって、今では思います。

寺尾 なるほど。そういうことだったんですね。

ルーズソックスをはかない理由が思いつかなかった

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鈴木 涼美
講談社
2017-12-07

この連載について

初回を読む
女が生きるのは病のようなものでもある

寺尾紗穂 /鈴木涼美

坂本龍一、大貫妙子らから賛辞を送られる音楽家であり、ノンフィクション等の著書も多数持つ文筆家でもある寺尾紗穂さん。大学在学中にAV女優デビュー、日本経新聞社勤務後、夜働く女性たちに関するエッセイや、恋愛・セックスのコラムを執筆する作家...もっと読む

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mayuqix 写メ日記に韓国のことを結構な頻度で書いているデリヘルの娘がいて、ハマった契機を訊いたら「特にない」と言われたっけ。 11ヶ月前 replyretweetfavorite