ダサい彼氏ならいらない、と思っていたあの頃のこと

小説家の森美樹さんが自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する日々を綴るこの連載。今回は森さんが高校生だった時のお話です。当時埼玉に住んでいた森さんは、雑誌オリーブを愛読し、東京に憧れる毎日だったのだそう。田舎での友情も恋愛も興味のなかったあの頃を思い返します。

埼玉をdisった映画『翔んで埼玉』が大ヒットしているが、実は私も埼玉出身である。現在は東京在住(限りなく埼玉に近い某区)とはいえ、30代前半まで埼玉で暮らしていたのだから、私の心身は埼玉でできているといっても過言ではない。

埼玉の人って……

いたずらに東京に近く、適当に便利なくせに特色がない、という立地が生んだ埼玉県民の鷹揚性。私も10代~30代まで、生まれ育った埼玉に愛着はなく、近くて遠い(電車がないから……)東京や、魅力的な観光地や名産品のある地方都市に憧れまくった。とにかく私は自分の故郷が田舎なのが我慢ならなかった。

47都道府県の中で埼玉が貧乳率№1だという。さらに巨乳好き率も№1だ。このふたつの事実を検証すると、「埼玉の人って素直(バカ正直?)なんだな」ということがわかる。貧乳をカミングアウトし、さらにないものねだりをしてしまう県民性。私が育ったのは埼玉のほぼ秘境に位置するのだが、個人的な感想としては田舎って巨乳が多い気がする。だって、そこいらじゅうにオーガニックな栄養が生えているから。

映画『翔んで埼玉』のCMにも使われている「そのへんの草でも食わせておけ」というセリフ、私に至っては特にめずらしくはない。小学生の頃は、そのへんに生えていた花の蜜を吸っていたし(美味!)、そのへんの木の実や果実を摘んで食べていた(美味!)。都会ではデパートやスーパーで売られている山菜が、そこいらへんに群生しているのだ。そこいらへんに食事(?)があるので、おやつには困らない。そのおかげかどうかわからないけれど、私も立派な巨乳になった。といっても、これは田舎生まれの田舎育ちにだけあてはまる話で、姉と私を育ててくれた母には通用しなかった。

母は私が11歳の時、父の元に嫁ぎ私達の母となったのだが、生まれも育ちも東京の人だった。あまり関係ないかもしれないが、姉と私の生みの母(40代半ばで死亡)は田舎の女性で、巨乳だったと記憶している。育ての母は貧乳、いや、小ぶりで清らかなお胸だった。しかし柳腰で洗練されていた女性ではあった。その生粋の東京人の母は、田舎の食材の貧しさにまず衝撃を受け(そもそも店がない。近場のスーパーまでは自転車で10分ほどかかる)、肉や魚やスイーツを電車で片道1時間30分かけて東京まで買い出しに行っていた。しかも電車は1時間に2本しかない。

ダサい彼氏ならいらない

こうして振り返ってみると、田舎の野菜と果物+東京の肉と魚とスイーツで成長期をしのいだ姉と私は、田舎と東京のミックスとなり、野性味と気品を兼ね備えたスタイルとなった(嘘です)。しかし、多感な時期に東京のエキスを吸ってしまったおかげで、田舎というのが急速に嫌いになったのも事実だ。

まあ、田舎あるあるかもしれないが、「田舎ではやることがないから、初体験の時期が早い」とか「田舎にはレジャースポットがないから、セックスばかりしている」とか「田舎は出会いが少ないから、すぐに結婚してしまう」etc、私が住んでいた地でも、まことしやかにささやかれていた。

“田舎”を枕詞につけてしまうから、なんとなくおちょくられているように聞こえてしまうが、すべて悪いことではない。初体験の時期が早ければ人生経験も自然と豊富になるだろうし、セックスばかりするのは犯罪ではないし、やれる場所が少ないから必然的に家でやることになるし、人が少ないから目立つことやるとすぐ噂になって、むしろ犯罪にはならないし、結婚が早くて子だくさんになるのは少子化問題解消につながる。出会いが少ないといったって、初恋の人と結婚できたらロマンチックではないか。

そもそもこれは昭和の話で、今や実際に出会わなくてもオンラインゲームや出会い系アプリで恋愛したり疑似結婚したり、やりたい放題なので問題はないだろう。

そう、すべてが幸せに結びつくのに、母に東京カルチャーをおしえこまれた私は、そんな幸せはナンセンスだと断固拒否した。ダサい彼氏ならいらないし、ダサいデートならしたくない。セックスするなら彼氏の部屋や山間のモーテルではなく、シティホテルでなくてはならない。

私は皆に嫌われていた
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アラフィフ作家の迷走性活

森美樹

小説家の森美樹さんは、取材や趣味の場で、性のプロフェッショナルや性への探究心が強い方からさまざまな話を聞くのだそう。森さん自身も20代の頃から性的な縁に事欠かない人生でした。47歳の今、自分自身の経験を交えながら、性を追及し、迷走する...もっと読む

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