アイツが声をかけてきたのは、大阪の道頓堀の近くだったと思う。
ちびまる子ちゃんの歌にあるような、電信柱の影からお笑い芸人が登場しそうな場所でアイツと私は出会ったわけだ。
もし、アイツと出会わなかったら、私はきっと今でも自分の身体を売る仕事を続けてたんだろうなと思う。
だけど、助けてくれたとか救ってくれたから感謝してるというわけでもなくて、別のものを売る仕事を目指すことになったっていうだけだけど……。
基本的に仕事っていうのは、自分の中にある何かを売るんだと思う。
それが頭の人もいれば身体の人もいる。体力だって余ってたら売れるだろうし、時間が余ってたら時間だって売れる。
私は美貌があるから、美貌を売りたかったけど、どうにも売り方がわからなかった。だから安直に身体を売ってたけど、カメラの前でちょっと微笑んだら10万円なんて仕事があったら、すぐに飛びつく。誰だってそっか。
「ねぇ、あんたさ。見た目が可愛いんだから、芸人になったら受けると思うよ」
私は、「芸能人」じゃなくて「芸人」っていう言葉になってたのはがっくりしたけど、ここが大阪だから、芸人の方が身近なんだろうな、と妙に納得した。 彼女の見た目はどこか変わっていて、すっぴんでも端正な顔立ちをしているのはわかったが、首から下が急に大人びるというかスラっとした手足をバタバタ動かしながら話すという感じで、印象として大人なのか子どもなのかわからないところがあった。
それでいて、胸もおしりも大きくて、彼女は「おかん譲りやわ」と言っていた。 彼女の話をよくよく聞くと、「私と試しにコンビを組んでみない?」ということだった。
「え? コンビの相方ってナンパして見つけるものなの?」
「そうや」
彼女はそう断言した。なんの逡巡もなく嘘(ボケ?)を言いきれるところに、私は自分と似たものを感じていた。
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