いい人が現れても、つい昔の恋人と比べてしまいます
2年前に別れた元カレのことが忘れられません。いまだに週に3回も夢に出てきます。
好みだと思える人が現れても、元カレと比べてしまい、なんとなく好きになりきれません。あんなに優しくて楽しい人は他にいないと思ってしまうのです。そのせいで、2年間彼氏がいません。
忘れられないことは仕方ないと思っています。ただ、そのせいで新しい恋ができないというのが悩みです。ちなみに、こっぴどいフラれ方をしたので、復縁の望みはゼロです。
(30歳・奈美)
奈美さんは元カレが忘れられないことに悩んでいます。〈復縁の望みはゼロ〉だと言うものの、いい出会いがあってもつい元カレと比較してしまい、新しい恋ができないでいる……。これが奈美さんの現在地です。
相談文にある〈いまだに週に3回も夢に出てきます〉という言葉を読んで、清田の脳内にはかつての失恋体験がよみがえりました。というのも、清田は6年間付き合って別れた元カノを引きずり、奈美さんと同じようにまさに週3で夢を見続けていた時期があるからです。当時、「昨夜も彼女が夢に出てきて……」という夢報告を頻繁に聞かされていた森田は、清田のことを〝週3ドリーマー〟と呼んでいました。
そんな清田も今では新しい恋を成就させ、幸せな結婚生活を送っています。そこで今回は清田がいかにして〝週3ドリーマー〟の状態から抜け出し、次の恋に向かうことができたのか、その経験を紹介しながら奈美さんのお悩みに回答していきたいと思います。
〈元カレ〉とは「誰」なのか
まず考えてみたいのは、奈美さんの頭の中にいる〈元カレ〉のことです。あえて「頭の中」と書いたのは、〈こっぴどいフラれ方をした〉という彼との関係は、おそらく2年前のその時点で止まっており、奈美さんは「今」の彼のことを知らないはずだからです。したがって、奈美さんが忘れられない〈元カレ〉は現実の彼とは別の存在です。
一方で、奈美さんには奈美さんの2年間があったのですから、2年前と「今」とでは、自分自身にも何かしらの変化があるはずです。だから「今」の奈美さんの頭の中にいる〈元カレ〉は、付き合っていた頃の彼とも異なる存在と言えるでしょう。このように考えていくと、〈元カレ〉は「奈美さんの脳内で作られたオリジナルの存在」であることが見えてきます。
次に考えたいのは、奈美さんがオリジナルな〈元カレ〉をどのように作ってきたのか、ということです。まず押さえておくべきは、その制作権のすべてを奈美さんが握っている点です。しかたがって奈美さんは、自分のことをこっぴどく振った〈元カレ〉を、付き合っていたときの彼よりも悪人にすることもできたはずです。
しかし、〈あんなに優しくて楽しい人は他にいないと思ってしまう〉と書いているように、実際には〈元カレ〉を理想的でポジティブな方向で制作してきたのでしょう。ただしこれは、奈美さんが意識的にそのような作業を行ってきたという意味ではありません。そもそも、奈美さんの実感としては「制作してきた」というより「彼のことや彼との時間をただ思い出してきた」という感じではないかと思われます。
つまり〈元カレ〉の制作は、より正確には〝記憶の再構成(=編集)〟に近い作業だと言えます。
〝週3ドリーマー〟だった頃の清田も、別れた恋人を知らない間に理想的な元カノに作り上げていました。実際に付き合っていたときは趣味や価値観が合わない部分も多く、うんざりする出来事も度々あったのに、そういう「見たくない部分の記憶」は脳内編集によって知らない内にカットされ、「見たい部分の記憶」だけをつなぎ合わせた理想の元カノができあがっていったのです(もちろん、これは後になって振り返ってはじめて気づいたことですが……)。奈美さんの場合にも似たところがあるのではないでしょうか。
過去の記憶は、基本的に時間が経つほど薄れていくものです。しかし脳内編集が繰り返されると、忘れるどころかむしろ「更新」されていくことになります。それはまるで、かつて流行った「たまごっち」という育成ゲームのようなものであり、奈美さんはいわば〝元カレっち〟を育ててきたわけです(清田の場合は〝元カノっち〟です)。これは推しのアイドルにもどこか似ています。〝元カレっち〟は奈美さんが2年もかけて大切に育ててきたものなので、愛おしくないわけがありません。
ともあれ、奈美さんが新しく出会う男性たちと比較しているのは、元カレではなく〝元カレっち〟だということが、ここで押さえておきたいポイントです。
〝元カレっち〟という障害
次に、〝元カレっち〟と比較される男性たちのことを考えてみたいと思います。相談文には〈(忘れられない)そのせいで新しい恋ができない〉という表現があります。つまり奈美さんは「元カレを超える男性が現れないから彼氏ができない」と考えているようです。
頭の中にいる〝元カレっち〟とは異なり、新しく出会う男性たちは生身の人間です。彼らとは実際にコミュニケーションを取り、その行動や表情を見るわけですから、「見たくない部分」も自然と見えてきます。がっかりするような言動や、あんまりカッコ良くない表情を目にすることもあるでしょう。その男性がいくら〈好みだと思える人〉だとしても、「見たい部分」だけで構成された〝元カレっち〟と比べるとどうしても分が悪いわけです。
清田にも、件の彼女とお別れしてしばらくしてからデートする関係になった女性がいたのですが、「この人も魅力的だけど、彼女のほうがやっぱりドキドキしたかも」「仕事の話をするにはこの人のほうが深まるけど、くだらない話で笑い合えるのは彼女だったな」「この人とは価値観は合うけど、友だちの期間も長かった彼女のほうが一緒にいて楽かも」など、事あるごとに〝元カノっち〟と比較をしてしまってどうしても乗り気になれず、結局その女性との関係を進展させることはできませんでした。
清田のこの体験を振り返ってみると、比較は二重の意味で新しい恋愛の障害になっていたことがわかります。比較によって、新しく出会った女性の魅力を捉え損ねただけでなく、「やっぱり彼女以上の女性はいない」と、〝元カノっち〟の魅力を自分でどんどんつり上げていたのです。
つまり、新しい恋愛に目を向けようとすればするほど新しい恋愛が遠ざかっていく……。清田はこのような構造に陥っていたと言えます。
奈美さんがこれと同じ状態にあるかはわかりません。しかし、〈なんとなく好きになりきれません〉というその原因は、少なくとも相手男性の魅力不足だけではないはずです。
自分だけで思い出せることには限界がある
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