結婚向きな人を選べと強要されます
年齢のせいか、飲み会があると必ずと言っていいほど恋バナになります。そして、まわりには既婚者や恋人のいる人が増え、独身で彼氏のいない私はアドバイスをされる立場になりがちです。私はちょっと欠点があってもおもしろい人が好きなのですが、それに対してよくこんなことを言われます。
・「いい人」と試しにお付き合いしてみたら?
・その年齢で「クソメン」を選んでどうするの?
・どんな恋愛もどうせ3年で冷めるんだから「いい人」を選ぶべき
・元カレは「いい人」だったんだから、結婚しておけばよかったのに
・おもしろい人なんてレアで、普通はもっとつまらないよ男性と深く関わる機会が少ないので、こういうアドバイスを聞いていると、まるで世の男性は「いい人(結婚に向いている)」と「クソメン(結婚に向いていない)」の2種類しかいないかのように感じてしまいます。そんなに「いい人」と付き合わないと幸せになれなくて、結婚できないのですか? ちょうどいい人はどこにいるの? 「いい人」を好きになることを強要しないで欲しいです。でも彼氏は欲しい!
(33歳・多恵)
アドバイスになっていないアドバイス
多恵さんは、やたらと〈いい人〉を勧めてくるまわりからの〈アドバイス〉に苦しめられています。まずもって指摘しておきたいのは、自分の価値観を多恵さんに〈強要〉しているこれらの発言は、単に混乱と嫌な気分を生み出しているだけで、到底アドバイスの体をなしていないという事実なのですが、それを踏まえたうえで考えたいのは、なぜ多恵さんがこの「アドバイスになっていないアドバイス」を軽くスルーできずに悩んでしまうのか、ということです。その理由を明らかにしていくことが、多恵さんの悩みを解決することにつながると考えています。そこでまず、アドバイスにある〈いい人〉や〈クソメン〉とはどういう人なのかを検討していきます。相談文から読み取れるのは、それぞれ次のようなイメージです。
・いい人=恋愛の対象としては物足りないけど、結婚向きな人
・クソメン=恋愛の対象としてはいいかもしれないけど、結婚向きじゃない人
「結婚向き」というのはおそらく、性格が穏やかで結婚願望があり、安定した職に就いていて人生設計がしっかりしている……くらいの意味でしょう。つまるところ、多恵さんにアドバイスをする助言者たちは「結婚するための〝常識的〟で〝普通〟のスペックを兼ね備えた男性」のことを〈いい人〉と言っていて、それがない人を〈クソメン〉と言っているわけです。助言者たちが自分の正しさに(おそらく)なんの疑問も持たず断定的に発言できるのも、その背後に〝常識〟や〝普通〟という大いなる存在が鎮座しているからです。
さらに助言者たちの多くは、その中における「恋愛→結婚」というレースをひと足先に走り終えているため、先輩としての〝良き体験〟をもとに「あなたもそうしたほうがいいよ」「今のままじゃ幸せになれないよ」と心からの言葉を発しているのだと考えられます。
〈いい人〉を選ばなければ幸せになれないのか
この構造は、新興宗教やマルチ商法の勧誘によく似ています。多恵さんがこの勧誘を無視できないのは、「現に彼氏いないでしょ? 結婚できてないでしょ?」と弱みにつけこまれて焦りが生まれているからでしょう。その結果として、多恵さんの中にも「おもしろいと感じる相手より普通の人が一番なのかな」という気持ちが顔を出しているのだと思います。だから勧誘の言葉を全否定もできないし、完全に迷惑だとも思えないわけです。
また、この〝普通の結婚教〟とも言うべき価値観の中では、とにかく結婚していることが善であるため、30歳をすぎて結婚できていない場合は「問題あり」とみなされてしまいます。そのため多恵さんは「自分はわがままや贅沢を言っているだけなのではないか……」といった謎の負い目のようなものを感じてしまっており、この点も勧誘をスルーできない理由のひとつになっていると思われます。
思い切って〝普通の結婚教〟に入信してしまえば、それはそれで楽になるとは思うのですが、しかし多恵さんは猛烈な違和感を覚えているわけです。それを無視してもいずれ破綻するのは目に見えていますし、現にこうして悩みまくっています。
我々としても、入信は絶対にオススメしません。なぜなら、〝普通の結婚教〟のドグマ(教義)は、「普通の結婚こそが幸せで、そのためには〈いい人〉を選ばなければならない」というものであり、入信することは、自分の価値判断の基準をこのドグマに預けることを意味するからです。少し大げさに言うと〝自分〟を明け渡すようなものです。
相談文には〈どんな恋愛もどうせ3年で冷めるんだから「いい人」を選ぶべき〉というアドバイスが紹介されていますが、ここからもわかる通り、〝普通の結婚教〟では恋愛が軽視されています。ドグマを守るためには、ときにクソメンを選ばせる恋愛という要素は邪魔なものでしかないからでしょう。これは、自分の感性や感情よりも結婚という目的を優先させろということです。また同時に、「いい人/クソメン」という条件でくくられている男性側の個性や、彼らと多恵さんの相性などがほとんど無視されている点も見逃せません。
もちろん、我々は結婚自体を否定するわけではありませんし、結婚するためには恋愛が必須だとも思っていません。しかし、それを決めるのは本人であり、まわりがとやかく言ってコントロールしようとしていいものではないはずです。自分の感覚をだまし、脅しのようなドグマに従って〈いい人〉という条件ひとつで結婚を決めることが、多恵さんにとっての幸せと言えるのでしょうか?
信仰の外に出るにはどうすればいいのか
さてここまで、多恵さんが「アドバイスになっていないアドバイス(=〝普通の結婚教〟への勧誘)」を無視できない理由と、そこにひそむ問題点について考えてきました。しかしこれでは、多恵さんの悩みを解決したことにはならないし、〈でも彼氏は欲しい!〉という心の叫びにも応えられていません。そこでここからは、それぞれの問題の解決策を考えていきます。
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