2019年。気づけば、山ガールブームから10年が経とうとしている。
山ガールブームが到来したとき、私はすでに山小屋スタッフだった。
当時、年配のスタッフが「最近の若者は山でもチャラチャラしやがって!」と山でのオシャレに否定的な態度を示すたびに、内心で「ほっといてよ」と思っていた。
一方、山雑誌で「女子は山でも可愛くしてなきゃ!」とオシャレを強要するような特集を見てもやっぱり、「ほっといてよ」と思った。
私は服が好きだけど、他人にあれこれ言われるのは好きじゃない。
きっと、多くの人がそう感じているのではないだろうか?
オシャレもなにも、そもそも毎日着替えるわけじゃない
下界の人に言うとギョッとされるのだけど、ほとんどの山小屋スタッフは毎日着替えるわけではない。水が少なく、週に1回程度しか洗濯ができないからだ。
だいたいの人は、週2、3回のお風呂のタイミングで着替える。もちろん外仕事で汗をかいたときはすぐに着替えたりするけど、気温が低いから屋内で仕事するぶんには汗をかかなくて、「別に着替えなくてもいっか~」という感じ。
洗濯物は自分の部屋にロープを張って干すので、ただでさえ狭い部屋が洗濯物でますます狭くなる。乾いた服は最初のうちこそ毎回畳むけど、最盛期で忙しくなると長時間労働でクタクタになり、ロープから直接とって着ていた。
その話を後輩にすると「私もです」と言われ、「だよね~!」と言い合った。
だけど、それを聞いていた先輩に「えー、私は畳まないと落ち着かないわ」と言われ、後輩と顔を見合わせて「うちらダメだねぇ……」と肩をすくめた。
山小屋にいると、どうにもだらしなくなってしまうのだ。
アイテムの色を限定したほうがいい理由
毎日は着替えないような環境でも、オシャレをしたがる人は男女ともにけっこういる。
20代の頃、60代くらいの男性のお客様に「あなた、山でも身奇麗にしてるねぇ。私の若い頃は、山にあなたのような女性はいなかった。山は変わった……」としみじみ言われ、リアクションに困った。
山に登るときは基本的に登山ウェアだけど、山小屋で働くときは自由。パタゴニアやノースフェイスなど、アウトドアブランドのウェアと、ユニクロなどのファストファッションを組み合わせる人が多い。
中には、白Tシャツにデニムのオーバーオール、頭に白タオルを巻き、DASH村のTOKIOのコスプレを楽しんでいるスタッフもいた。
下界と違い、山小屋には多くてダンボール2箱程度の服しか持ち込めない。
昔はあまり考えず、いろんな色やデザインの服を持って行った。けれど、いろんな色のアイテムを持つと「合わない組み合わせ」が生じてしまう。
以前、緑のチェックのシャツを着ているとき、肌寒くなって上からフリースを着ようとしたら、洗濯済みが赤いフリースしかなかったことがある。
緑と赤って、これじゃあクリスマスかスイカじゃないか……!
いろんな色の服を持つからこういうことが起こる。
そのことに気づいた私は、だんだんと山に持っていくアイテムの種類や色を限定するようになり、最終的に「フリース以外のアイテムはすべて黒か紺かグレー」というマイルールを決めた。
こうしておけば、面白みはないけど失敗もない。スイカにならずに済むのだ。
ストレスで激太り! 体重がなんと○kg増
オシャレしたい欲はあるものの、夏は忙しくなるとどんどん見た目に無頓着になる。
それに加えて、太る。私がいた山小屋では「最盛期、男子は痩せるし女子は太る」というのが定説になっていた。女子は接客や調理ばかりだから体を動かす機会がないし、食べることでストレスを発散する傾向にあるのだ。
私は毎年、山にいる間に5~6キロ太る。
下山すると少しずつ元に戻るので、オフシーズンに仲間と会うと「痩せたねー!」と驚かれる。私としては下界バージョンが本来の姿なのだけど……。
そんな感じだから、最盛期になると「持ってきたスキニーデニムがキツくて穿けない!」という事態が発生する。
毎年のことだから、山に持っていく服を選ぶ時点で「このスキニーデニム、途中で太ったら入らなくなるんだよな」とわかっている。それでも持って行くのは、「今年こそは太らないぞ!」という決意の表れだ。
なのに結局、途中からお腹まわりが苦しなって穿かなくなる。その繰り返しだった。
人事異動によって、夫と小さな山小屋を任されたのは2015年のこと。
その年は、環境と業務内容が変わったことで心身ともに疲れていた。人間関係は良好だったものの、「ほかのスタッフのメンタルケアもしなきゃ!」と気負いすぎて消耗。
食べることとお酒でストレスを発散し、過去最高の激太りをしてしまった。
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