230億の男と仕事をしてみた話

トレードで230億円の資産を築き「一人の力で日経平均を動かす男」との異名を持つと言われるまでに至った個人投資家cis(しす)さん。この連載では初の書籍『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(通称cis本)の刊行を記念し、2月17日に八重洲ブックセンターで行われた「cisトーク」の内容を再構成してお伝えします。連載に先立ってcis本が生まれた経緯、担当編集から見たcisさんの凄みを紹介します。


(この後すぐお面をぬぐcisさんと麻雀ライターの福地誠さん。撮影:神保達也)

ゲーマーの青年が株をはじめて230億円稼いだ話

 担当編集の私とcisさんが出会ったのは2018年の2月になります。

 もともと別の企画の取材候補者の一人として、麻雀ライターの福地誠さんが名前を挙げられたのがcisさんでした。駅前のドトールで打ち合わせをしながら急に名前が出てきて「え、cisさんと知り合いなんですか?」と驚いたことを覚えています。福地さんとcisさんの親交につきましては、こちらの〝幻のあとがき〟に詳細が書かれています。
 その後、前の企画が暗礁に乗り上げ、予算に穴があくかもしれない、ということで「福地さん、ダメ元でいいのでcisさんに本を頼んでいただけませんか?」というのが本書の企画の経緯です。編集者として決してほめられたものでありません。

 メディアの取材も基本的に受けていないcisさんは、予想通り過去に幾度とあった書籍企画の提案も断られていました。
 そんなcisさんが本を受けてくれた理由、それはひとえに福地さんの実績と人柄によるものです。
 cisさんの家の本棚には福地さんが編纂してきた麻雀の戦術書が何冊もあるといいます。麻雀というゲームを探求してきた福地さんなればこそ、信頼して話ができると考えてもらえたのではないかと思います。
 また投資に特化した本と言うより、相場を含めた麻雀やポーカー、そしてビジネスにも通じるゲームの戦い方の本にしたいという提案内容も大きかったのかもしれません。投資家というよりゲーマーでありギャンブラーというところにcisさんの本質があり、その物の見方、思考法、勝負哲学こそ本にする価値があると考えたからでした。

 そのような背景で生まれた『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』は、cisさんの投資哲学の本でありつつも、cisさんの思考の背景にある勝負哲学の本であり、その思考と勝負がはぐくんだ人生哲学の本です。そのため投資家の本でありつつ、ある種のマインドスポーツ選手の本になっています。ですので投資をやったことがない方でも、楽しめるものになっているかと思います。

 スケールが違いすぎて異世界転生モノみたい、というような感想もいただきました。
「ゲーマーの青年が株をはじめて230億円稼いだ話」というほうが、より本書の内容に即しているのかもしれません。

「必ず儲かる」と絶対言わない〝ホンモノ〟

 本書にはcisさんが語る投資のアドバイス、実際に試した投資手法、投資をする際の心構えについての記述がちりばめられています。
 ただ、この本で書かれているのは、ハウツーではなくあくまでヒントであり、これを読んで必ず儲かる、という類のものではありません。

 付言すれば、本書を読まれて投資の成績がよくなったとツイートしていただいている方はかなりいらっしゃって、本当にありがたいと感じています。しかしそれが本当に本の影響か、はたまたご本人の努力の賜物か、私には確かめる術はありません。仮にそうだとしても、やはり読んだら儲かる、なんてことは言えません。本書の「はじめに」でcisさんも述べられていますが、一時的に人を出し抜ける手法はあったとしても、そうしたものが知れわたると一気に陳腐化するからです。

 むしろ市場金利以上必ず儲かるみたいな話は詐欺か巧妙にリスクが見えないようになっている話だとcisさんは言います。人のお金を預かって増やすなんてことには全く自信がないから嫌だとも言います。

 こういう話を聞いた時、〝ホンモノ〟だなと改めて確信しました。そして、ホンモノをぜひ直接感じてほしいと思ったのが、人前に出ることにはデメリットしかないcisさんにトークイベントをお願いした最大の理由でもあります。

優位性はゲームを探求する力

 本を作る上でcisさんの話を15時間ほど聞きましたが、端々に出てくる非凡な発想に唸らされるばかりで、まごうことなき傑物だと思いました。
 とりわけcisさんと接していて思うのは、ゲームへの理解度を高める探求心が尋常ではないということです。これこそがcisさんが相場で勝ち続けている理由、本質的な「優位性」ではないかと思います。
 ゲームのルールを知ることはもちろん、現実に何がどう動いているかというシステムを理解し、期待値が大きい勝負(リスクが小さくほぼ勝てるものからリスクはあってもリターンが非常に大きいまで)を見出す力に圧倒的に長けている、そういう印象です。
そしてゲームの理解や仮説思考で利益を上げるというのは、ビジネスの世界でも活きる心構えではないかと思います。

 たとえば2005年にはジェイコム株誤発注事件というものがありました。cisさんはその時に6億円の利益を出していますが、本書では当時の過程と思考が詳細に述べられています。
 事件当時大学生だった私は、お金があって株をはじめていれば簡単に大儲けできたのになあ、という安直なことを思いながらニュースを観ていました。けれども、実際にその時に相場に張り付いていたトレーダーの一人に話を聞くと「あの時は何が起こったかわからなくて、こわくてこわくて…何もできなかった」そうです。
 けれども、cisさんは市場の混乱の中で、誤発注だというエビデンスを瞬時に確認して、今後どういった裁定がなされるかも想定しながら行動していました。すべてが想定内ということではなくても、ゲームのイベントの攻略法としてはこれ以上ない堅実なプレイをされています。
 誤発注に違いない、ということに賭けて買って大儲けした人は何人もいたと思います。けれどもこのレベルまでシナリオを想定して相場に臨んでいた方は、きわめて少数ではないでしょうか。

異端の平常心

 本書ではcisさんが勝てるようになるまでの来歴にも触れています。人となりの紹介に多くを割いたのはcisさんの成功は、その方法論を実行できる気質による部分が大きいと考えたからでした。私自身は、学ぶことは非常に多かったですが、真似することはできないな……と率直に思いました。

 たとえば、トークイベント後の取材でcisさんは次のように答えています。
「不完全情報ゲームに身をゆだねるってことに思春期時代から慣れすぎているので、勝っても勝っても高揚しないし、負けても負けても落ち込まない……というマインドはできているかなと思います」

 cisさんを傑物たらしめているのは、私はそのマインドにあると考えています。多くの勝負師と接してきた福地さんをして「異端の平常心」と言わしめるマインド。
 たとえば株で大損した時に、思わずモニターを殴って割ってしまったというような話を聞いたことがあります。cisさんは一度もそんなことをしたことがないといいます。「モニター割っても手が痛いし修理や買い替えの分、損するだけじゃないですか」と極めて冷静です。
 どんなゲームでもミスプレイをしたあとには自分のスタイルを崩して、結果ミスを重ねてしまうプレイヤーが少なくありません。cisさんはそんなことは考えず、常に目の前の状況で正しいプレーをすることしか考えていないようにみえます。
 あるいは私はフリー雀荘によく行くのですが、勝っていれば機嫌がよくなって、負けていれば露骨に機嫌が悪くなる人なんてごまんといます。というか私自身がその類いの俗物です。
 そもそもcisさんが機嫌の悪いところをみたことがありません。「ああ、乗り気じゃないんだな…」ということはありますが(本の販促がらみのお願いはほぼ乗り気ではありません)、それでもその案件について別にやりたくないかどうかというだけの話で、常に飄々とされています。
 経済的な余裕・生活的な余裕にその理由を求めることもできますが、お金があってもすぐ機嫌が悪くなる人なんて山ほどいます。自制心という感じでもなく、生き方というか世の中に対する感覚が根本的に違う、というのが私の感想です。

率直な話が語られたcisトーク

 すでにcisさんご自身が明言されているように、本書についてcisさんは印税を受け取られていません。相場では「マイルールのようなものは設定しません、相場の都合と自分の都合は本質的に関係がないじゃないですか」と語るcisさんですが、相場の外では「相場以外で利益を出すことはしない」というルールに則って行動されているようです。本の売れ行きや読者の反響をお伝えしますが、もう終わったこととして本当に興味がなさそうです。

 「まあ、やってよかったです。思い出にはなりました」と言っていただけたのがせめてもの救いでしょうか。
 お子さんが小学校の朝読書の時間に本書を読んでいたという話も聞きました。小学生がどこまで理解できたか定かではありませんが、家がとてつもないお金持ちと理解したのか、冷蔵庫が調子悪くなったときに「買い替えたら早いじゃん」というようになったようです。それは果たしてよかったのか…編集者として一抹の罪悪感を覚えます。

 こうした中で、現時点での最後のお願いとして引き受けていただいたトークイベントとその後の合同取材の話で、この連載は構成されています。
 トークイベントでは、直近のトレードの狙い、見ている指標、今の市況の見立てや、現在の狙っているものなど、会場に来ていただいた投資家の皆様の質問に、率直に思うところを語っていただいております。本は投資をやらない方でも楽しめるかと思いますが、この連載はかなり投資の専門的な話題になっていることをご了承ください。

 2ちゃんねるからツイッターに至るまで、数々の「名言」を残されているcisさんですが、このトークイベントの受け答えから、相場に真摯で、相手に紳士な人柄を感じ取っていただければ幸いです。
(トークイベント記事「230億の男、直近のトレードを振り返る」はこちら→https://cakes.mu/posts/24721

生ける伝説、独自の投資・勝負・人生哲学を初開陳!

角川新書

この連載について

230億円稼いだ投資家があの日語ったこと

cis

投資で230億円の資産を築き、「一人の力で日経平均を動かす男」との異名を持つと言われるまでに至った男——それが・cis(しす)さんです。彼の投資哲学が綴られた書籍『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』(KADOKAWA)は、発売...もっと読む

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kont_1009_2 cisさんの記事。 https://t.co/lRIXqf40VO 4ヶ月前 replyretweetfavorite