翌日、久美は昨日の買い物の一部始終を与田に話した。
「こんなことやっていたら、絶対ダメですよね!」
与田はいつものニヤニヤ笑いではなく、珍しく声を出して笑った。
「ハハハハハ。値引きだけに頼って勝負するのは、間違いだってことですよ」
「でも、実際には値引きをしているケースも多いです」
「値引きは一切ダメ、とまでは誰も言っていません」
与田は苦笑いをしながら続けた。
「値引きする場合は、他のお客さんでも納得できるような理由が必要だ、ということです。もしその店が毎年数百万円も買っているお客さんだけを対象に値引いているとしたら、宮前さんだって納得するでしょう? 問題は、お得意さんと一いち見げんさんを区別せずに値引いていることです。そういうのはお得意さんを裏切る値引きです。宮前さんだって、もう買わないでしょう?」
昨日のことを思い出し、深くうなずく久美。しかし、一方で疑問も浮かんだ。
「たしかに、値引きをしないで売れるのが一番だと思いますけど、そんなことって、世の中あるんでしょうか?」
与田はいつものニヤリとした笑みを浮かべて説明した。
「たくさんありますよ。たとえばコーラなんてそうですね」
「え? コーラ?」久美には何のことだかわからない。「コーラって、ディスカウントストアでそれこそ1缶
50円とか60円くらいで箱売りしているじゃないですか。値引きして売っている典型的な商品だと思いますけど——」
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