ストーンズは長生きする

【第23回】2019年から1989年にタイムスリップし、音楽ライターとして活躍を始めたトリコに、夢にまでみた「ドルフィン・ソング」への対面取材の依頼がやってきた。緊張で一睡もできずにその日を迎えたトリコは、遂に彼らと対面を果たすが……。

10 カメラ! カメラ! カメラ!

 一睡もできずに朝を迎えた。俊太郎はベッドの隣で悠々と鼾を掻き、憎たらしさが込み上げてくる。  約束の時間より、三時間早く用意して家を出た。

 場所は六本木のスタジオ。4C2ページ。取材時間は撮影込みで二時間。

 今後、ドルフィン・ソングは忙しくなり、ふたりのルックスの良さから、音楽誌よりファッション誌に重心を置いて展開していくことになる。私はこの取材で、私という人間を、決して嫌味にならない程度にアピールし、ふたりと良い関係を築く第一歩を踏み出さなければならない。

 スタジオに一番乗りした。遅れてやってきた編集者とカメラマンと、ウェイティングルームで、勝新が捕まった話とか、タイソンが負けたとか、どうでもいい無駄話に興じた。私はいつもより多めに、大きな声で喋りまくった。そうでもしないと緊張が解けなかった。

「そういえばトリコさん、ストーンズは行ったんですか」

「行きませんでした。忙しかったし」

 俊太郎は行きたがっていたが、私は仕事でてんてこ舞いだった。ひと悶着あったが、何とか宥めすかした。

「でもストーンズ、これが最初で最後だったかもしれませんよ」

「あー大丈夫ですよ。思いのほか長生きしますから、あの人たち」

「えー、でもミックもキースも、若い頃はドラッグばっかりやってましたからね」

「絶対大丈夫ですって。私、三回観ましたもん」

「はい?」

「あ、ええーっとですね。そのー」

 カメラマンが「準備をしてきます」とアシスタントを連れて出て行った。

 ドアの向こうに気付かないまま、私はお喋りに夢中だった。カメラマンの話し声がして、最初のうちは気に留めていなかった。しかし長く続くので、まさか……と思い、慌てて部屋を飛び出した。


そこにドルフィン・ソングのふたり、島本田恋と三沢夢二が立っていた。

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ドルフィン・ソングを救え!

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