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〈社長の会計〉のシステム開発も順調に進んでいたある日、久美は商品企画会議室で、与田に価格戦略について報告していた。
「〈社長の会計〉の価格は、柔軟性を持たせたいと思っています。私のセールスの経験では、言い値で買うお客さんもいれば、徹底的に値引きを要求するお客さんもいます。だから言い値で買うお客さんには言い値で、値引き要求のお客さんには交渉して決まった価格で買ってもらうようにすると、当社の売上が一番大きくなります」
久美は、数字を計算した表を与田に見せながら話す。
「〈社長の会計〉では標準価格は高めに設定しておきます。言い値のお客さんにはそのまま売る。強い値引き要求がある場合は徐々に価格を下げます。今までのお客さんの値引き率をもとに、売上をシミュレーションしてみましたが、この方法だと、当社の収益もバッチリ。売上も最大化できます」
(決まった! 我ながらいいこと言っているなあ)
自画自賛する久美だったが、無表情で話を聞いていた与田は、「まったくわかっていない。最悪の結論です」とバッサリ切り捨てた。
「最悪って……」怒りでワナワナ震える久美は言葉にならない。
(これで売上が最大化できるということもちゃんと分析して、数字で示しているじゃない!)