突然だけど、人気漫画『岳』を読んだことはあるだろうか?
北アルプスを舞台に山岳救助を描いた漫画で、主人公の三歩さんは遭対協(山岳遭難防止対策協会)の隊員。
遭対協とは、実在する民間の山岳救助組織だ。
そう、彼らは民間人。夏の間は山をパトロールしてレスキューも行うけど、それが職業というわけではない。皆さん、本業を持っている。
……という話を私がしたら、この連載の担当氏に
「遭対協の方って、本業がありながら、なぜ自ら危険が伴う救助活動をされてるんですか?」
と言われ、頭を殴られたような気がした。
なんでって……なんでだろう?
そんなこと、考えたこともなかった。遭対協の人たちは、いつも当たり前のように山の安全を守ってくれていたから。
「遭対協」って何? 山岳救助をする動機は……
間違えられがちだけど、遭対協は県警の救助隊とは違う。
県警の救助隊の人たちはもちろん警察官なのだけど、遭対協の隊員の皆さんは警察官ではない。
漫画『岳』では、三歩さんは遭対協の人で、久美ちゃんは県警の人。一緒にレスキューしているけど、属している組織が違う。
ちなみに、私は『岳』の愛読者である前提で話を振られがちだけど、実は読破していない。少女漫画好きなので、そこまでハマれなかった。
それはさておき、ひとことで遭対協と言ってもいろいろあるらしい。
今回は遭対協の中でも「夏山常駐パトロール隊(常駐隊)」について書こうと思う。※長野県での話です。
彼ら・彼女らは夏の間、北アルプスにいくつかある拠点に常駐し、山をパトロールする。2人1組でさまざまなルートを巡回するのだ。救助要請があると無線に連絡が入り、近くにいる隊員が救助に駆けつける。
常駐隊の人たちは、夏の間はずっと山にいるわけだけど、それ以外の季節はほかに仕事をしている。カメラマン、旅館勤務、植木屋さんやガイドさんなど、本業はさまざま。
なぜそんなプライベートなことまで知っているのかというと、常駐隊の人たちはたまに山小屋に泊まる。顔見知りになると、そこそこプライベートな話もするのだ。
冒頭でも書いたけど、なぜ本業がありながら、危険を冒してまで山岳救助をするのか?
何年も遭対協に属している知人に聞いてみたところ、
「始めた動機は、かっこいいから。山が好きだから山で働きたかったし、山の仕事の中で救助が断然かっこいいと思って」
という返事が返ってきた。
「山の安全を守りたいっていう使命感とか?」
「使命感っていうか、もともと山が好きだから、山で死んだり怪我してほしくはないよね」
とても明快な答えだ。
山が好きだから。かっこいいから。死んだり、怪我したりしてほしくないから。
そのシンプルでまっすぐな気持ちに従って、自分の行動を選び、何年も続けている。継続しているところに、思いの強さを感じた。
「まぁ、自分が死なないようにはするけどね」
それを聞いて、ほっとした。
顔見知りの隊員がレスキューに走るのを見たこと
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