表現とセクシュアリティーズ

完結したら買おう」が潰す、作品の未来

ゲイ・エロティック・アーティストの田亀源五郎さんとオープンリー・レズビアンでBLを研究している溝口彰子さんの対談もいよいよ佳境。世間では、たとえばアート作品やポルノなど、ゲイ男性向けの表象はある程度見つけられますが、レズビアン向けとなると話は別。おもにノンケ男性向けの「百合」作品をのぞくとかなり数が限られるのは一体なぜ? 『お嬢さん』『ボーイズ・ドント・クライ』などの映画作品を例に、その理由を探ります。そして、BLがこれからも「進化」し続けるために大切なこととは?

レズビアン表象の難しさ

田亀源五郎(以下、田亀) 私としても、レズビアンの描写に関しては自分の中でも判断が難しいときがあって。一例を挙げると、2016年の韓国映画で『お嬢さん』という作品があったのですが……ネタバレありで話すので、嫌な人は耳をふさいでください(笑)。


お嬢さん

エロティックな場面もあるサイコスリラーなんですが、ラストシーンで、ヒロインである女性ふたりがレズビアンセックスをして、いわゆる“貝合せ”(女性器をこすりつけあって快楽を得ようとする性技)を耽美的に撮るシーンがあって、それが極めて、男性が消費するレズビアン・ポルノみたいな絵面で、私、一瞬、「ウッ」て思っちゃったんですよ。
それまでは、「あ、実はレズビアンの話だったのね」と思って楽しくなってきたところに、いきなり、「あれ? 男向けレズポルノ?」というふうに感じてしまった自分がいて。ちょっと引いてしまったんだけど、よくよく考えてみると、これってただ自分の中にある、「レズビアンのセックスは、ヘテロ男性に消費されるレズビアン・ポルノである」という思い込みのせいなんですよね。
映画の監督は男性だったけれども、仮に「監督はレズビアンの女性だよ」という前情報があったりして、LGBT映画祭でかかっていたら、そんなことはなんにも考えずにレズビアン映画のひとつの濡れ場として普通に楽しめていたと思う。でも、そこに色んなノイズが入ってきたときに一瞬「ゲッ」と思ってしまったというのは事実なので、あらためて表現や表象って難しいなと思いましたね。

溝口彰子(以下、溝口) そうなんですよね。キンバリー・ピアス監督による実写映画で『ボーイズ・ドント・クライ』(2000)という、ブランドン・ティーナという実際にいたFtM(身体は女性、性自認は男性)の人物を描いた映画があります。


ボーイズ・ドント・クライ

ブランドンはホルモン注射も手術もしていなくて、男として生きているけれども、実は肉体的には女だったということが荒くれ者の男友達らにばれて、犯されて殺されてしまうという実話に基づいた映画で、ヒラリー・スワンクが大ブレイクした作品です。
が、批判されている点があって、男たちにレイプされた直後に、それまではブランドンを男だと思ってお付き合いをしていたラナという女の子とブランドンのふたりが、まるで“優しいレズビアンセックスをした”かのようなシーンがあるんです。監督はカミングアウトしているレズビアンなんですが、どういうところが批判されているかというと、それまでの物語ではブランドンのFtM性を描いていたのに、ここで結局「女同士でレズ」みたいに描写してしまっている点なんです。たしかにそのシーンはそういうふうにしか見えなかったので、どうしてそうなったのかはわからないけど、レズビアンの監督でさえも、そこではトランスジェンダーの男の子をレズビアン寄りにしてしまったということがありました。

私の嗜好も取り上げて!

田亀 なるほど、難しいですね。だから、前回も言いましたけど、あまり深く考えずに、ゲイもレズもBLも、それぞれゆるめに結びついたほうがいいんじゃないかな、と思うんです(笑)。
たとえば私は、読者から「あなたの作品にはこれが欠けている」みたいなことを言われたときに、「じゃああなたが描いてよ」と言って済ませることにしています(笑)。私はずっと、自分がほしいけれども、世の中になかったものを描き続けてきたので、私の作品を読んでなにかがないと思ったら、「じゃああなたの出番でしょ」ということでしかないんです。そんな感じでみんなばんばんやればいいのに、と思っています。

溝口 「これが足りない」って言ってくる人も、たぶん熱意はあるんでしょうね。

田亀 きっとね。作品をより完璧にしようという考え方なのかな?


左:溝口彰子さん、右:田亀源五郎さん

溝口 というよりも、この方向性を描いてくれる人がいなかったなかで田亀先生が描いてくれたから、「私のこの嗜好も取り入れて!」と伝えたいのだと思います。

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表現とセクシュアリティーズ

エスムラルダ /田亀源五郎 /溝口彰子

『BL進化論』シリーズの著者でレズビアンの溝口彰子さんが「いつか絶対、きちんとお話ししたい」と願っていたのは、ゲイ・エロティック・アーティストの田亀源五郎さん。田亀さんは、青年誌で連載されたマンガ『弟の夫』が大反響を呼び、数々の賞を受...もっと読む

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コメント

miyamiya_a5 こっちも面白い。 4ヶ月前 replyretweetfavorite

yocchi_reading “応援する作品の“第1巻”を買うことの大切さ” 4ヶ月前 replyretweetfavorite

Fragarach じゃあ買っても2巻で打ち切りになったら返金してくれよという気にはなる 4ヶ月前 replyretweetfavorite

tcpsock そうは… https://t.co/D0etVAeGEJ 4ヶ月前 replyretweetfavorite