理屈で納得するまで謝罪しない夫
【登場人物】
清田隆之
桃山商事・代表
1980年生まれの文筆業
森田雄飛
桃山商事・専務
同じく1980年生まれの会社員
ワッコ
桃山商事・係長
1987年生まれの会社員
清田 桃山商事の恋バナ連載、今月は「恋愛と謝罪」について語っていいます。
森田 前回の「カレシの謝罪が腑に落ちない……その原因とは?」の後半では、「絶対に謝らない夫」の話が出てきたよね。
ワッコ いわゆる亭主関白タイプな男性で、謝れないのはプライドが邪魔をしているのではないかという。
清田 亭主関白な男性って、ナチュラルに「男は女より上」って考えてそうだからなあ。「謝らない男性」にはこのタイプが多そうだよね。
ワッコ 他のタイプの「謝らない男性」もいますか?
森田 友人の女性から「自分の中の理屈で納得するまでは絶対に謝らない夫」の話を聞いてるので、今日はまずそのエピソードを紹介したいなと。
清田 あ~。そういう人いるよね……詳細をお願いします!
森田 彼女と夫が、ある年の大晦日に夫婦水入らずで過ごしていたときのことです。すでに結婚して数年経っていたんだけど、それが二人きりで過ごす初めての年越しだったんだって。
清田 結婚してると、年末年始はどちらかの実家にいたりすることが多いもんね。
森田 そもそも彼女の実家は厳格な家で、生まれてからずっと、年末年始は家族全員で過ごすことになっていたとのことです。だから彼女は恋人と年を越すという経験がなくて、その年越しを迎えるにあたってすごくテンションが上がっていた。
ワッコ 年越し処女だったんですね。テンアゲになるのもわかります。
森田 夫にもそのことは事前に伝えていて、彼女なりにいろいろ準備万端整えて大晦日を迎えた。
清田 イベント感を高めたわけね。
森田 当日の夜。二人でのんびり紅白を見た後に、「ゆく年くる年」が始まってそろそろカウントダウンだなとワクワクしていた。
ワッコ いよいよですね。
森田 そこで彼がおもむろに立ち上がって、洗面所に歯を磨きに行った。
ワッコ そのタイミングで、ですか。「え?いま!?」ってなりそう。
森田 でもまあ、彼女は「すぐ戻ってくるだろう」と思ってぼーっとテレビを見ていたんだけど……気づいたらゴーンゴーンと除夜の鐘が鳴り響いていた。
ワッコ 明らかに越している。
清田 おおおお。
森田 テレビの向こうは大盛り上がりな状況で。
清田 ハッピーニューイヤーのやつね。
森田 彼女はその瞬間に「もう年明けちゃったよ!」と絶叫したんだって。そしたらカレが洗面所から戻ってきて、「呼べばいいのに」と言い放ったとのことです。
ワッコ oh……。
清田 わざわざ呼ばなくても、そこは気にしてほしいところだよね。
森田 彼女は、「二人で迎える初めての年越しを楽しみにしていたのは自分だけで、カレは大事にしてくれなかったんだな」と思い、悲しくなってしまった。
ワッコ 泣けてきます。
謝罪をめぐるネゴシエーション
森田 彼女の悲しみや怒りは大きくて、その後めっちゃくちゃに喧嘩したらしい。でもカレは、「年越しの瞬間に歯磨きしていたこと」については最後まで謝らなかった。
清田 「呼べばいいのに」と言ってるように、カレの中には「悪いことをした」って感覚はないんだろうね。自分に非はない、責任は何も言わなかった彼女にあると……。
森田 カレはもともと記念日や歳時的なイベントからは距離を置く人だから、仕方ない部分もあったなと、彼女も話してたんだけど。もちろんケンカの最中はそこまで冷静にはなれなかったみたいですが。
ワッコ でも事前に話していたんだから、楽しみにしてた気持ちを汲んでほしいじゃないですか。
森田 彼女もそう感じたみたいで、ケンカの果てに「私の気持ちを尊重してくれなかったことについてはどう思ってるんだ」と聞いたら、カレはそれについては謝ったんだって。
ワッコ そこは割と素直なんですね。
清田 彼女がやったことは、ちょっと交渉術っぽいよね。「年越しの瞬間に歯磨きしてたこと」については謝罪を引き出せなかったから一旦おさめて、より根源的な問題として「私の気持ちを尊重してくれなかったこと」を提起してる。謝罪のネゴシエーションとでも呼びたいような、繊細なやりとりだよね。
森田 カレが謝ることができたのは、おそらく自分の中の理屈と矛盾しないからだと思う。時間軸で考えると、「彼女の気持ちを尊重できなかった」という問題は、年越しの瞬間よりも前から発生してるよね。だからこそカレは歯磨きをしていたわけで。彼女を傷つけたことに関しては申し訳なく思うけれど、「年越しの瞬間の自分」はいつも通りの自分であり、別に悪いことはしていなかったと言いたいのではないかと。
ワッコ なるほど。その当時の自分も、理解さえしていればできたはずだということですね。
清田 まさに「自分の中の理屈で納得しなければ謝らない男」だね。それにしてもめちゃくちゃディティールの細かい話だな(笑)。
ワッコ 少し気になったんですが、そもそも記念日的なものを大事にするという考え方を、カレは持っていなかったわけですよね。なので、彼女の年越しへの気持ちを理解できなくて当然だという理屈はわかります。でも、1回謝ったぐらいで考え方を改められるんでしょうか。そんなにあっさり学習できるんですかね?
森田 相手の期待に応えるように行動していくことはできるんじゃない?
清田 まさに「学習」って感じだよね。
森田 学習だけど、行動が伴ってればいいじゃん。
ワッコ モメるから仕方なくやってるという感じになったら、ちょっとイヤですけど。
森田 うーんたしかに……クレームへの予防策みたいなのはイヤかもしれない。
ワッコ 「電子レンジに猫を入れるな」って一応書いておく、みたいな。
清田 あらゆるクレームを想定した上で最適の行動を選択していく的な。でも、理解はしたけど納得してないってこともあるよね。一回の謝罪によって行動がアップデートされるとはかぎらない。
クレーム対応スタイルの謝罪
清田 今の話の流れでいうと、男性が言いがちな謝り方には「怒らせたならごめん」「気分を害したなら謝る」みたいなのもあるかなと。
ワッコ クレーム対応スタイルですよね。とりあえず謝っとけ系。
清田 気を悪くさせたのはゴメンだけど、その原因にどれだけ自分が関与しているかとか、そこに自分の責任がどの程度あるかとかは考えず、まずは形式的に謝るというね。
森田 ここで前回も紹介した、謝罪を理解するためのフローをもう一度見てみましょうか。
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