自分の人生はなんなのか
—— 前回(裸より美しい、女性の愛情の撮り方。/生々しい愛情は、誰にでも撮れる。)まで、相澤さんが、どのように被写体の女性と向き合って、女性の力を借りているのかを伺いました。
今回は相澤さんが、どうしてこういった見るものの記憶を呼び起こす写真を取るようになったのか伺えればと思います。写真を撮り始めたのはいつ頃ですか。
相澤 ちょっと曖昧なんですけど、中学生の頃ですかね。コンパクトカメラで。
—— 単純に写真を撮るのが好きだなという、素朴な感じですかね。
相澤 草むらにいる蛇を見つけて撮ったりとか、近所の犬猫なんかを撮ったりとか、動物を観察するのが好きだったんですけど、撮りたいものを撮ってました。そのうち、中学3年ぐらいかな。女の子も撮ったりとか。
—— 中学生で照れずに女の子を撮れるのはすごいですね。
相澤 僕、姉がいたので、女性に関してさほど抵抗がなかったんですよ。だから、なんか女の子だからっていうことをあまり意識せず、ただ撮ってたっていう感覚だったような気がします。
—— そのままずっと撮ってたんですか。
相澤 いや。高校生くらいまで、たぶんそういう感覚で遊びながら撮っていて、気がついたらちょっと飽きて、実際に女の子と遊んだりするのにハマりまして(笑)。
23くらいになって、建築設計とかの図面を描くような仕事をしてたんですよ。そこは周りに男しかいなくて、つまらないな……みたいな(笑)。
で、せっかくの人生だから、楽しいことやりたいなって、26ぐらいの時にレンタルスタジオ勤務のスタジオマンになったんですよ。そこでずっと物撮りとか、ライティングとかがおもしろくて、いろいろ照明のコントロールとか大判カメラの扱い方とかを学んで。
そのあと、29歳で独立して、フリーランスで仕事を始めたら今度は食うのに精一杯で。
—— では、いつ頃こういう撮影を始めたんですか。
相澤 そのまま35歳ぐらいのとき、仕事もそれなりに上手くいって、収入も安定したりもしたんですが、なんとなく充実感に欠けてるような気もしてたり、立て続けに身近な友人や親族が亡くなったりしたときに、なんとなくこう漠然と「俺の人生って一体なんなんだろう」みたいな思いがよぎりました。
よくある35歳の分岐点ですね。
プロのはず、うまいはずなのに
—— もうすこし自分の好きなものを撮りたくなったということですか?
相澤 そうですね。クライアントワークではなく、なにか私的に残せるもの、と。それで、当時付き合ってた女性を撮ってたんですよ。最初はよく目にするような、いわゆるプロっぽい写真を撮っていたんです。
—— 技術的な写真ですかね。
相澤 そうです。それを彼女に見せて、「これいいでしょ?」って感じで見せてたんすよ。そしたらその時の彼女が「あ、うん、綺麗だね」みたいな、こういまいち弱い反応で。あれ? おかしいな、と。
—— プロだし、うまいはずなんだけどなと。
相澤 そうですそうです。まぁ、いい写真というか、綺麗な写真なんですけど、今思えば、おもしろくないというか。
そんな中、たまたま部屋でくつろいでいる時に小さなデジカメで、パパッって撮った写真を、彼女があとで見返してたら、「これかわいい〜」って、めちゃくちゃ喜んでて、「あぁ、これがいいんだ」と。
—— 表情がよかったんですかね。
相澤 適当に撮ったの、バシャっと撮ったやつだけど、これなんだって思って、あの、いま話しながら思い出したんですが、その彼女のおじいちゃんが、アマチュアカメラマンだったんすよ。
cakesは定額読み放題のコンテンツ配信サイトです。簡単なお手続きで、サイト内のすべての記事を読むことができます。cakesには他にも以下のような記事があります。