粋な人のもとには人が集まる
千趣会の会社員時代、取引先であるレコード会社・ポリドールの開発部部長・石原一博さんには、数え切れないほどたくさんの人を紹介してもらいました。
石原さんは当時、ポリドールの中ではかなり偉い人で、レコード業界でクラシックと言えば石原さんしかいないというくらいの方。
人好きで、いつも明るくて楽しげな空気をまとっていて、しかも謙虚でした。
ただ石原さんは、人の好き嫌いがはっきりしていました。 義を尽くす人は徹底的に愛するけど、義をおろそかにする人は、取引先であっても適当にしか付き合わない。
八方美人ではないのに、いや、八方美人ではないからこそ、彼のもとに人が集まってきたのではないかと思います。
石原さんは大変なグルメだったので、私は通(つう)の食事の楽しみ方を徹底的に教わりました。蕎麦屋なら小川町の「まつや」。イタリアンなら高田馬場の「文流」。お寿司なら浅草の「美家古寿司」、ビールを飲むなら神保町の「ランチョン」……。
加えて、それぞれの店で最高においしく料理をいただくには、どんな順番で何を オーダーすればいいのかを、全部教えてくれました。
石原さんには、ほんまにありとあらゆるジャンルのお店に連れて行ってもらいました。ついこの間、当時の手帳を見返したら、週に何度も石原さんと会っていたようで す。弟分のように可愛がっていただきました。
そんな石原さんが人をつなげるのは、高田馬場の「餃子荘ムロ」が定番。一階がカウンター席で2階にテーブル席のある、餃子中心の台湾料理店ですが、そこには石原さんを中心としたいろいろな業界の人が集まってくるのです。
ソニーミュージック、東芝EMI、BMGビクター、音楽之友社やマガジンハウスの編集長ほか、有名誌の編集長のお歴々。フジテレビが今のお台場ではなくまだ新宿区河田町にあった頃には、フジテレビの方もたくさん来ていました。
フジテレビアナウンサーの故・逸見政孝さんも、家族ぐるみでお店とお付き合いがあったと聞いています。
周囲から一目置かれている人のお墨付き
石原さんは私みたいな変な大阪弁をしゃべる友人がはじめてだったらしく、その関西人キャラ部分を他のお客さんの前でいじってくれました。
彼の中では大阪弁のイメージが明石家さんまさんの「△△しまんねん」だったよう で、紹介時はいつも「俺の友達の〝まんねん君〞」。
おかげでお店に行くと、フレンドリーに「お、まんねん君来てるんだ」と、馴染みのお客さんに言ってもらえました。
ありがたかったのは、私のようななんの力もコネクションもない人間であっても、石原さんが「こいつ、大阪の千趣会ってとこのバイヤーで、なかなか面白い奴だから気に入ってるんだ」と、思い切りアゲてくれたことで、他のお客さんの誰もがいつもウェルカム状態で私に接してくれたことです。
私は、このように周囲から信用されている人がある人間を誰かに紹介することを、「フィルターを通す」という言い方をしています。
周囲から一目置かれているような人(石原さん)というフィルターを通して紹介された私は、もともと石原さんと親しい人間にとっては「安心して付き合える奴」という保証、すなわち石原さんの〝お墨付き〞を得たことになるのです。私がひとりでその店に行って突然隣の人に話しかけても、そう簡単に親しくはなれないでしょう。
当然、フィルター側の人間(石原さん)には相応の責任が生じますし、紹介された側の人間(私)はフィルター側の人の顔を潰したり、義理を欠いた行動を取ったりしてはなりません。
どちらの立場であるにせよ、このことは今でも常に注意しています。
上質な人付き合いをするために大切なこと
そのフィルターに関連して、私が絶対に守らなければいけないと思っている、人付き合いのマナーがあります。
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