自分を深く掘り下げたら見えてくるものがある

資生堂のサイト「ウェブ花椿」で連載中から話題になったはるな檸檬さんのマンガ『ダルちゃん』は、20代のOLが幸せや居場所についての答えを見つけていく作品。女性の生きる道を赤裸々に描く「ブス会*」主宰・ペヤンヌマキさんは今月末に新作を発表されます。今回、マンガ研究者のトミヤマユキコさんにもご参加いただき、女性の幸せついて、創作について、おしゃべりいただきました。前編はこちら


左・トミヤマユキコさん 中:ペヤンヌマキさん 右:はるな檸檬さん

作品は実体験?

ペヤンヌマキ(以下、ペヤンヌ) はるなさんは『ダルちゃん』に、ご自身の経験も反映されましたか?

はるな檸檬(以下、檸檬) 正直、あの中で出てきたエピソードで経験したことってほぼないんです。でも、近い経験によって身体に残った感情、みたいなものは随所に入れ込んでいて。自分のことを思って何かを言ってくれた人を「うるせーな」と思ってしまった気持ちとか(笑)。描いた状況は私ではないけれど「気持ちは自分のことのようにすごく分かる」みたいな感じですかね。

ペヤンヌ 別シチュエーションに置き換えて、その感情だけを入れ込むみたいな?

檸檬 そうそう。

ペヤンヌ そこにリアリティーを持たせるって、逆に高度ですね……。私なんてそのまんま……。

—(一同笑)

檸檬 そのまんま書く方が勇気があると思います!

ペヤンヌ 演劇はあくまでもフィクションという体(てい)があるので、できちゃうところがあるんですよね〜。

トミヤマユキコ(以下、トミヤマ) 今回のブス会*の新作『エーデルワイス』[※]はペヤンヌさんの半自伝的な作品と言っていいんでしょうか?
[※] 2019年2月27日から3月10日まで東京芸術劇場シアターイーストにて上演。

ペヤンヌ はい。数年前に書いた『女の数だけ武器がある』(幻冬舎文庫)という自伝を織り込みつつ、20代40代女性の恋愛をテーマにした舞台です。私、実体験からしか書けないんですよ。40代になって過去を振り返ることが増え、20代の女性を見ると応援したい気持ちが出たり、過去の自分を投影して同族嫌悪のような気持ちがわいたり……これを芝居にできないかな?と思って書きはじめました。

最初に出会った「師」がハイレベルすぎ

トミヤマ はるなさんは東村アキコさんの元でアシスタントをされてましたよね。東村さんは自伝的なマンガも描かれるいわばペヤンヌさんスタイルですが、ご自身は違う方向を選ばれたワケですね?

檸檬 先生のあの姿勢は「すごいな〜」と尊敬しますけど、超人的すぎて「この人には絶対になれない」と思っていました。出産について描いた『れもん、うむもん! —そして、ママになる—』(新潮社)といったコミックエッセイはありますが、それも「出せるところをパッケージングして出す」みたいな感じですし。でも逆に言うと、日本でトップクラスの人を毎日横で見ていたわけで、あの高みを基準にしなくてもよかったかも、とは思います(笑)。

ペヤンヌ 私は大学を卒業してすぐ、“ドキュメンタリーAVの鬼才”と呼ばれる平野勝之さんがいた制作会社に入社したんですけど、あそこはもう、全部がむき出しなんです。さらけ出し方が半端ないし、実際撮るものは裸だし(笑)。「お前は人を斜めに見ているだけで、さらけ出していない!」といろんな人に怒られてコンプレックスに悩まされていたので、「あんなふうにはなれない」という気持ち、よく分かります(笑)。

トミヤマ おふたりとも、最初に出会った「師」がハイレベルすぎです(笑)。でもそんなすさまじい才能と出会っても、挫折することなく、自分のやり方を見つけたというのはすごいことですよね。妙にプライドが高かったりしたら、傷つきたくなくて辞めちゃってたかもしれないですし。

檸檬 ああいう怪物のような偉大な人を目の当たりにすると、プライドなんてへし折られるんですよ(笑)。そういう意味でも「あそこにいてよかった」と今でもすごく思います。

創作に入るときは無の状態に

—出し方は違うけれど、ペヤンヌさんもはるなさんも、自分の感情を掘り下げていって作品に昇華させるわけですよね。その「感情の芯を捉える方法」みたいなものはありますか?

檸檬 そこに“自分がいない”ということが大事のような気がします。美内すずえ先生は描きはじめる前にまず喫茶店でアイデアノートを広げ、2時間ぐらい落書きするんですって。そうすると雑念が出切って空っぽになり、自我がなくなってやっと描けるようになるそうで。

ペヤンヌ へぇ!

檸檬 だから『ガラスの仮面』では台詞に迷ったことが一度もないとか。……それは超絶なんですけど(笑)、この感覚は分かるところがあるんですよね。描きはじめる前段階で「自分が何を感じていたのか」という掘り下げをして正確に掴んでおく必要もあるけど、その時間は創作とはまた別なんです。

ペヤンヌ ちょっとそれ、メモらせてください!(笑) しっかり自分を掘り下げて、その後は無の状態にして創作に入るわけですね。

檸檬 詳しいことはぜひ、美内先生の『見えない力』(世界文化社)を読んでください!(笑) 『ダルちゃん』も連載が進むうちにキャラが勝手に動きはじめて、そこからは「何を描こう」ではなくて、「何が起こるんだろう」みたいな感じだったんですよ。どこかで起こっていることを観察しているみたいで、自分の感情が入らない方が描けていける手応えがありました。

ペヤンヌ 確かに“自分”を水面下にしていく感覚は分かりますね。何日も書けなかったのに、朝シャワーを浴びている時にフッとアイデアを思いついて、急いで机に向かいはじめたらすっーと滑り出すとか。台本を書きはじめる前っていつも、「自転車の乗り方が分からない」みたいな状態でおそるおそる書きはじめて、どこかの時点で「なんとか走れる!」みたいになっていくんですよ。

檸檬 分かります。すっごく悩んで、うだうだグダグダと無益な時間を過ごしたあと、「一回寝るか……」って横になって、起きるといい突破口が見つかることもありますしね。

ペヤンヌ でも、考えないでただ寝ちゃうと何も出てこないんですけどね。

—(一同笑)

忙しい人ほどインプットしている
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はるな檸檬×ペヤンヌマキ×トミヤマユキコ「自分で自分を幸せにするということ」

はるな檸檬 /ペヤンヌマキ /トミヤマユキコ

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