ダルちゃん』が40代のおじさんにまで届いた理由

資生堂のサイト「ウェブ花椿」で連載中から話題になったはるな檸檬さんのマンガ『ダルちゃん』は、20代のOLが幸せや居場所についての答えを見つけていく作品。女性の生きる道を赤裸々に描く「ブス会*」主宰・ペヤンヌマキさんは今月末に新作を発表されます。今回、マンガ研究者のトミヤマユキコさんにもご参加いただき、女性の幸せついて、創作について、おしゃべりいただきました。


左・ペヤンヌマキさん 中:はるな檸檬さん 右:トミヤマユキコさん

「批判を受けるんじゃないか」という恐怖心

—みなさんは「マンガ」「脚本」「文章」と、分野は違いますがモノをつくる側として活躍されていらっしゃいます。今日は、創作のお話や、女性の生き方について、お話をうかがえたらと思います。

ペヤンヌマキ(以下、ペヤンヌ) 『ダルちゃん』、とてもよかったです。『ダルちゃん』の物語は、どうやって構想していったのでしょうか?

はるな檸檬(以下、檸檬) 私、ストーリーもののマンガを描くのは『ダルちゃん』が初めてだったんです。

トミヤマユキコ(以下、トミヤマ) 初めてが『ダルちゃん』って、すごいですね。

檸檬 実は連載が決まる半年ぐらい前、別の出版社の編集さんにずっとストーリーもののネーム(絵コンテ)を出してたんですけど、なかなか進まなかったんです。そんな悩んでいた時期に資生堂さんから連載のお話をいただき、じゃあまずこちらをやってみようと決めて。

—資生堂の『ウェブ花椿』ですね。

檸檬 そう、『ウェブ花椿』は「20代女性に向けてほしい」というお題があったのが大きかったですね。子供が「なんでもいいから絵を描いて」と言われるより「海の生き物」と言われた方が自由に描ける、みたいなことに近い気がするんですけど、「この枠の中でどうしようかな?」と考えるとスムーズ……ではなかったですけど(笑)、どうにか私にもできたんです。

ペヤンヌ 私も「なんでもいいから脚本書いてよ」と言われると悩んじゃいますね。

檸檬 そうなんですよね〜。でも『ダルちゃん』は“詩を書く女の子の話にしよう”というラフな感じでスタートしたけど、連載が進むうちに重いテーマに踏み込んでいき、「批判を受けるんじゃないか」という恐怖心が募ってきました。

トミヤマ 初めてのストーリーもので、「女性の生き方」をめぐる、かなりシビアな部分に踏み込んでいったんですから、それは怖いですよね。ペヤンヌさんにも、書く恐怖心が出る時はありますか?

ペヤンヌ あります、あります。今回[※]の執筆中もブルブル震えて、生きた心地がしませんでした。稽古初日に「台本が書けませんでした」なんて状況になったらマジで地獄ですし、劇場もおさえてるし。 [※]ブス会*の新作『エーデルワイス』のこと。2019年2月27日から3月10日まで東京芸術劇場シアターイーストにて上演。

檸檬 あ、締め切りの恐怖(笑)。

トミヤマ 恐さの種類がちょっと違う(笑)。

ペヤンヌ 女性にとってナイーブなテーマとか、リアルな体験を世に出す恐怖みたいなのは、ここ10年ずっと続けていることなので正直あまりないんですよね。最近はちょっと露出狂みたいになってて。

—(一同笑)

ペヤンヌ だから『ダルちゃん』で一番刺さったのが、主人公が自己表現する場を得た時に、恋人から「やめて欲しい」と言われた場面でした。


『ダルちゃん②』(はるな檸檬・小学館)より

ペヤンヌ 私も身近な人を作品に描いて「傷ついた」と言われた体験があって。悪く書いたつもりはないのに「自分のせいで人が傷つくんだ」と一時期書けなくなってしまったことを思い出して、号泣しました。最終的にはダルちゃんと同じように、「書くしかない」という結論にいき着きましたけれど。

トミヤマ ダルちゃんも「私を幸せにするのは、私しかいない」と言って、創作し続けることを選びましたもんね……。

40代のおじさんにまで届いた

檸檬 あのマンガは、まさにその「誰かに合わせるのではなく、自分を基準に生きること」を主軸に描いたマンガだったんです。恋人のヒロセくんがダルちゃんに詩を書くことを辞めて欲しいと言うあの場面も、創作で誰かが傷つくことを入れたかったというよりも、他者に価値基準を置いている人が、それを自分に取り戻していくターンを描きたかった。

—そうだったんですね。

檸檬 なのでペヤンヌさんのように実体験と引き寄せてくださったり、作り手の方々に反応いただいたのは、嬉しい驚きでした。

トミヤマ ラジオ番組で『ダルちゃん』を紹介する機会があったんですけど、パーソナリティーのライムスター宇多丸さんも「これはモノを作る人の話で、創作することの残酷さや、創作による救いを描いたものなんだ」というようなことをおっしゃっていました。20代女性をターゲットにスタートしたマンガが、宇多丸さんみたいな40代のおじさんにまで届いたわけです(笑)。多方向に広がるすごいマンガだったんだなと、改めて感じますね。

ペヤンヌ 羨ましい。ブス会*っておじさんの共感が全然得られないんです。

—(一同笑)

ペヤンヌ たまに男性で「おもしろい」って言ってくれる人もいますけど、女性が泣くようなシーンでゲラゲラ笑う……みたいなズレもありますし。その差は、ある意味興味深いんですけどね。

檸檬 そうなんだ! でも女性と男性のそういった違いって、まさに過渡期ですよね。いまは女がちゃんと「腹が立つ」と言いはじめ、軋轢がありつつも、ようやく相互理解の努力をしはじめた時代のような気がしますから。

—いま、フェミニズムの意識も広がりつつあるように感じます。

檸檬 『ダルちゃん』はフェミニズム的なことは考えずに書いたんですけど、時代の流れと偶然シンクロしたところがあって。特に連載の最初は、ダルちゃんがセクハラ的な言動のスギタさんとホテルに行く流れのところが、「#MeToo」の時期と重なりましたし。

ペヤンヌ すごいタイミングで生まれた作品だったんですね。

檸檬 まあでも私自身「#MeToo」への関心はあったので、意識下で影響があったんでしょうね。だから意図せず滲み出たのかも?とも思います。

「いま、私は傷ついてる」と気づくのは難しい

ペヤンヌ でも20代の時って特に、男性との間で起こる出来事が“怒るべきことなのか”分からないことってありますよね。

檸檬 「いま、私は傷ついている」とか、自分の気持ちって本当に気づくのが難しいと思います。

トミヤマ 「いま考えたら、あのときのアレってさあ……」みたいなこと、ありますよね。以前、20代の時から付き合いがある友人男性に「トミヤマさんは明るくて男性に対して物怖じしないから“性格的にセクハラの被害に遭わない”ってよく言うけど、被害に遭ってると僕は思うよ」と言われて驚いたことがあるんです。

—自覚していないだけだ、と。

トミヤマ そうなんです。彼から見ると、そう感じる何かがあったんでしょうね。自分ではなんともないと思っていても、側から見ると健気に受け流しているようにしか見えなかったのかも……と思って。『ダルちゃん』では年上の女性であるサトウさんが「怒っていいし、あなたは傷つけられたのよ」と教えてくれましたけど。


『ダルちゃん①』(はるな檸檬・小学館)より

檸檬 物事って結局いろんな角度から見ることができるので、「ハラスメントじゃない」と思えば、そうなっちゃう。「これはハラスメントである」という価値観を社会の大多数の人が共有して求め出さないと、判断ができない問題なんだろうなぁと思います。

(後編に続く)

後編「自分を深く掘り下げたら見えてくるものがある」は2/28(木)更新予定。お楽しみに!

構成:川添史子/写真:曳野若菜


<お知らせ>
★2月27日(水)~3月10日(日)上演のブス会*「エーデルワイス」の詳細は
こちらからどうぞ。

『エーデルワイス』

★はるな檸檬さんの『ダルちゃん』は好評発売中!

『ダルちゃん①』 『ダルちゃん②』

★トミヤマユキコさんの新刊『夫婦ってなんだ?』が、3月末に筑摩書房から刊行されます。お楽しみに!

この連載について

はるな檸檬×ペヤンヌマキ×トミヤマユキコ「自分で自分を幸せにするということ」

はるな檸檬 /ペヤンヌマキ /トミヤマユキコ

資生堂のサイト「ウェブ花椿」で連載中から話題になったはるな檸檬さんのマンガ『ダルちゃん』は、20代のOLが幸せや居場所についての答えを見つけていく作品。女性の生きる道を赤裸々に描く「ブス会*」主宰・ペヤンヌマキさんは2019年2月末に...もっと読む

関連記事

関連キーワード

コメント

busukai 【 #エーデルワイス 掲載情報 】(再) ★Cakes #はるな檸檬 ×#トミヤマユキコ ×#ペヤンヌマキ 鼎談 前編 (2/26) https://t.co/l0eGCjkSqZ… https://t.co/E1zFAcsdv8 9ヶ月前 replyretweetfavorite

yuhyuh__ |はるな檸檬×ペヤンヌマキ×トミヤマユキコ「自分で自分を幸せにするということ」|はるな檸檬/ペヤンヌマキ/トミヤマユキコ|cakes(ケイクス) https://t.co/By8PCHRW2H 豪華なメンバー!! 9ヶ月前 replyretweetfavorite

N_7039 https://t.co/zXPEOgjqen よかった。後編も読む🤔 ダルちゃん、もう一回読んどこ。 9ヶ月前 replyretweetfavorite

mickmickmk ※後編は2/28(木)更新予定 9ヶ月前 replyretweetfavorite