過去の記憶を揺り起こす写真
—— 写真集、とても引き込まれました。女性たちの表情がとにかく優しいというか親密ですよね。写真に限らず良い作品は、見る人の過去の記憶を呼び起こすことがあると思うんですが、個人的にそういう感覚がありました。
相澤 ありがとうございます。そう言ってもらえるのは、とてもうれしいです。男性にも女性にも、昔の出来事を思い出したと言ってもらうことは多いです。
「◯◯ちゃん思い出した」とか「家に帰ったら、嫁に優しくしなきゃなぁ……」とか(笑)。
—— わかる気がします。
相澤 この間も、知人から「昔、付き合っていた女性に、見つけてあげられなかった表情のような気がして、すごく自分はダメだったんだなって思い直した」と言われました。
女性にこういう表情を、させてあげられなかった、見れてなかった、気づけなかった……。僕も若い時そうだったし、今でもそうなってしまいがちなんですけど、そういうことってありますよね。
—— 引き込まれると同時に、すこし混乱しました。「これはなんなのだろうか」と。というのも、すべてプライベートの写真なのだろうか、と思うぐらいに砕けた雰囲気の写真が多いですよね。これはいわゆる「作品撮り」なんでしょうか。
相澤 そうですね。プライベートの写真も一部ありますが、基本的にこちらから撮りたいとお願いした人か、撮ってほしいと依頼があった女性を撮っています。
普段の仕事はまるで違う種類の撮影をしているんですが、この写真たちは、そういうお金を頂いている仕事とは違い、パーソナルワークとして捉えています。
—— どういうふうに撮るんですか?
相澤 撮るときはなるべく、個人的な友人を撮る感覚で撮っています。そうですね、いま僕ら面と向かって話しているじゃないですか。そういうときに、ただこう(手元のカメラを構える)……撮ってるんですよ。
撮っていると、相手も自分のこういう動きに反応してるんだな、みたいなのを感じて、変化していく。その変化を徐々に積み重ねていくんです。
—— ここに立って、こちらを向いてくれとかそういうのはないんですか。
相澤 ほとんどないです。「今日はこういう写真を撮りたいんだ」っていうテーマを設定することも、ほぼないです。変化をつけるためにポーズつけたりしますけど、それをいい写真と思うことはあまりないです。
雑談をしながら、ただひたすら撮ります。大体、昔付き合っていた人のエピソードとか、なんとなく聞きながら、「ああ、そうなんだ〜」と相槌を打ちながら、相手が休憩で寝っ転がってる時でも撮っています。
—— お風呂場でなど、肌を見せている写真が多いですけど、「お風呂に入ってるとこは撮らないでよ」とか、そういうコミュニケーションは……
相澤 ありますあります。相手がいやがることは絶対にやらないです。
ペットの犬を撮るような感覚で
—— たとえば女性を撮るカメラマンの典型的なイメージとして、「いいよ、いいよ〜、きれいだよ〜」と言いながら撮るっていうのありますよね。ああいう感じでもないんですか。
相澤 もちろん、魅力的である、ということは随時伝えます。
ただやたらとしゃべったりはしません。女性に言うと、わかってくれる人はすぐにわかってくれるんですけど、「ペットの犬と同じような感覚で接してる」んです。
—— ペットですか?
相澤 これ間違えて捉えると、すごく見下しているように聞こえるかもしれないですけど、そういう意味ではなくて、犬には言語が通じませんよね。
だから動きや表情を見ながら、「水がほしいのかな?」とか想像してコミュニケーションするじゃないですか。その感じで、言葉ではなく、相手の表情や反応を第一の判断材料にしています。言葉の表現よりも表情や態度表現の方が理解しやすいんです。僕は。
もちろん会話もしますが、言葉よりも態度というか、表情を優先してコミュニケーションをしています。伝わりますかね(笑)。
—— なるほど。何に集中して撮っているというのはありますか?
相澤 撮っているときは、何も考えないように、ただひたすら撮っているだけですが、女性の表情ですかね。ずっと目を見てます。
—— なるべくリラックスしてもらうよう工夫をしたりとか。
相澤 基本的にはリラックスしてもらうのが一番なんですけど、相手が、例えばちょっとイラついたとか、違うこと考えたりとか、頻繁に感情が動くじゃないですか。そういう揺れ動きも彼女たちのある瞬間の物語として、それも含めて、彼女たちらしい魅力や感情に持っていけるようにしています。
一瞬の表情を見逃している
—— あるがままに撮る中で、どうして女性たちが、こんなに輝いてるんでしょうか。
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