誰も見たことがないサービスを作るということ ー山本憲資(株式会社Sumally)ー

「会社って何だろう?ベンチャーじゃないとできないこと」と題して行われている、池袋コミュニティ・カレッジでのトークイベント。毎回、今話題のベンチャー創業社長をむかえ、コルク佐渡島庸平が、起業に至った経緯や隠されたストーリーを引き出します。6月17日に行われた第3回の様子をご紹介します。

佐渡島 山本さんはまず電通に就職され、転職してコンデナスト・ジャパンで雑誌『GQ JAPAN』の編集をされてからSumally(サマリー)を起業されました。編集者を経て起業したという点で、山本さんは僕の先輩ですね。僕が起業したらすぐに山本さんが人を介して「会いたい」と言ってくださって、そこで初めてお会いしました。

山本 はい。起業される前から佐渡島さんのことを知ってはいたんですが、コルクのインタビューを読んで改めて、「こんな面白いことを考えている人がいるんだ!」と。会いたい人がいたら会いに行くのは、僕にとってごく普通のことです(笑)。

「“モノ”の百科事典を作ろう」

佐渡島 Sumallyは一見、今あるサービスと似ているように見えるかもしれませんが、詳しく知ると、他にはない革新的な部分を持っているサービスだと分かります。まず概要をお話しいただけますか?

山本 はい。Sumallyは、“モノ”のtwitterのような構造になっています。自分のセンスと合う人をフォローしておくと、その人が「欲しい」、「持っている」と言ったものが、自分のページにどんどん表示されてくる。その中に自分も欲しいものがあれば「want it」、持っているものがあれば「have it」を押す。すると、自分のページにアイテムが掲載されていきます。もちろん、自分でアイテムを検索して追加することも可能です。

山本 「want it」「have it」を押すと、自分のフォロワーのトップページにもアイテムが流れていきます。それを見たフォロワーがアイテムを「want it」したり、「have it」したりする。wantとhaveが繰り返されて、モノの情報が拡散されていきます。
また、2013年からはコマース機能を付けました。僕がある商品を「have it」にすると、僕のフォロワーのトップページに「山本憲資が〇〇をhave itしました」と表示されます。そこからも、そのアイテムを購入できるようになりました。つまり、モノの百科事典というのがベースのコンセプトですが、そこから情報と売り場がどんどん拡散されていく、ソーシャルな仕組みなんです。

佐渡島 売り場が増えていく仕組みは、ありそうでなかった画期的なものですよね。そもそも、Sumallyというサービスを思いついたきっかけは何だったのですか?

山本 ある時、Nikeの新旧モデルをすべて網羅しているモノがパブリックな場所にない、とふと気付いたんです。Nikeだけではなくて、時計も鞄も、電化製品もすべてそうだなと。あらゆる“モノ”が全然整理されていない。それを整理することができないかな、と思ったんですね。そこで、2010年代の百科事典を作ろうと考えました。

佐渡島 なるほど。

山本 2010年代の百科事典はどうあるべきかと考えた時に、モノの写真があってそれが何か分かるのは当たり前だと。それに加えて、誰がそれを欲しいのか、持っているのか、売っているのか、というのが、“そのモノ”をアイデンティティする重要な情報だと考えました。Facebookも、面白いのは名鑑であること以上に、そのうえで起こるコミュニケーションですよね。Sumallyも同じく、モノの情報以上にどういったコミュニケーションができるだろう、と考えて思いついたのが、この仕組みです。

ビジネスとしての手応え

佐渡島
すごく面白いアイディアですが、すぐビジネスに結び付けるのは難しいようにも感じます。当初から、ビジネスにしていけるという確信があったのでしょうか?

山本 考え続けているうちに、やっていけると確信した瞬間がありました。あの、今のeコマースの仕組みって、基本的にそのサイトが販売しているものを並べるという構造になっているんですね。僕はこれを、「List to Sell」という状態と呼んでいます。ルイ・ヴィトンのページには、今売られているルイ・ヴィトンの鞄が並んでいる。楽天だと楽天が販売している商品だけが並んでいる。

佐渡島 はい。

山本 でも、Amazonはこの仕組みを変えました。彼らも最初は売るモノを並べようとしました。ただこの世の中の本すべてが並んでしまったのです。その上で本を売買することで、「List to Sell」から、「Sell & Buy List」、つまりリスト上で売買するというルールに変えてしまったんです。Amazonだけが売るのではなくて、そのリストで世界中の古本屋が売れるし僕らは買える、という環境を作ってしまった。ユーザビリティとして革命的な仕組みです。だからこそみんな売りにくるし買いにくる。

佐渡島 確かにAmazon以降、本の買い方が劇的に変わりました。

山本 はい。でもその仕組みが実現できているのって、まだ本とCDの分野だけなんです。それ以外の分野、特に嗜好品マーケットのカテゴリは、全くリストとして整理されていない!と気が付いた。B2C10兆円、C2C6~7兆円のこの市場ごと新しい仕組みにできないかと。

佐渡島 なるほど!そこにそれだけのビジネスの可能性があると。

山本 はい。そう思ったのが、やれるな、やる価値があるなと思った瞬間です。そして、2011年に『GQ JAPAN』の編集者を辞し、Sumallyを始めました。

編集者時代に培ったもの

佐渡島 山本さんを見ていると、編集者としてのプライドが芯にあるような気がします。編集者時代の経験が今につながっているというか。

山本 はい。いまももちろん活きています。たとえば、「みんなが目指すゴールが面白ければ、人は必ず共感して動いてくれる」ということ。日本の雑誌のギャラって、カメラマンが篠山紀信だろうが若手だろうが、基本的に一円も変わらない。表紙も、誰が出ようが、一律です。お金をメリットに出てくれる状況は、雑誌に関してはない。だから、誰もが「やりたい」と思ってくれる、そういうシチュエーションをいかに作るか。そのことを常に考えていました。

佐渡島 山本さんの、人を巻き込む力が素晴らしいなと、いつも思っています。

山本 ありがとうございます。この時に学んだことは、今も変わらず意識し続けていますね。

細いひもでつながった、世界中のネットワーク

佐渡島 Sumallyはモノの百科事典ということですが、モノにまつわるエピソードなどは深掘りされていませんよね。今後、Sumally上で深いコミュニケーションが生まれることを目指していくのでしょうか?山本さんの考えをうかがいたいのですが。

山本 確かに、「まだ好きになっていないものを好きになる」ときには、深く語られているということは重要な要素だと思います。でもSumallyの役割としては、「本当は好きだけど、その存在を知らなかった」っていうものが、世の中にまだまだあるんじゃないかと。まずはその人たちが、その知らなかったモノにリーチできる仕組みを作りたいんです。

佐渡島 もっと広い範囲で物を共有していこうと?

山本 はい。細いひもでつながった世界中のネットワークを作りたいと思っています。たとえば、渋谷109の世界観が好きなLAやブラジルの女の子って、必ずいるはずですよね。でも、いまの彼女たちにそれを知らせるには、スーパーセレブをCMに起用するなど、世界中の人たちが109を知っている状況を作らなければならない。だけど、同じ世界観が好きな人たちをひもでつなげて、届けたい情報があったときにちゃんとそのネットワークに持っていく構造があれば、必ずその人たちに届けることができます。それを実現するのが、Sumallyです。

佐渡島 なるほど。世界中がフラットに同じモノを楽しめることは、僕の目指しているものと重なりますね!

ユーザーの嗜好情報の獲得と提供


佐渡島 現在さまざまなサービスがユーザーデータを取得していますが、Sumallyが取得しているデータは、さらに有用なのではないかと。具体的にはどのようなデータなのでしょうか。

山本 Sumallyのビジネスモデルには、先ほどのコマースの他にもう一つ大きな軸があります。ユーザーの属性や嗜好の統計データの提供です。Sumallyでは、アイテムが属性としてカテゴリ・ブランド・商品名を持っているので、たとえば、Nikeの最新スニーカーを持っているユーザーがどんな車をwant/haveしているか、車種レベルまで分かります。年齢、月別、商品単品だけでなく、シリーズ、ブランド全体の統計も可能です。これらのデータをブルームバーグ、日経テレコムのように企業向けに提供していこうと思っています。

佐渡島 ユーザーがさらに増えて行けば、偏りのない、圧倒的なデータになっていきますね!さすが元・電通、という感じですが(笑)。

山本 ありがとうございます(笑)。Sumallyは、「POH (Point of Have)=何を買ったか≒POS」に加えて、「POW (Point of Want)=これから何を買うか」という意思表示データを取得できます。ユーザーにこれから買いたい、すなわち欲しいアイテムにこのペースでアクションしてもらえているサービスは世界的に見てもSumallyしかないので、このデータは非常に価値があると言えます。
また、Sumallyのデータを使えば、広告配信においても詳細なターゲッティングが可能になります。Nikeが新しいスパイクを出す時に、Nikeの旧モデルとadidasの旧モデルをwant/haveしている人だけに広告を表示していくことも理論的には可能なんです。一人あたりにかける広告費が全く変わってきます。そこまでのターゲッティングが可能な広告システムが将来的に実現できれば、最高に面白いなと思っています。

佐渡島 Sumallyの展望をうかがっていると、本当にわくわくしますね!今日はこのわくわくを来場者のみなさんと共有できてよかったです。ありがとうございました。

山本 こちらこそ、ありがとうございました。


次回7/15(月)は丸若屋 丸若裕俊さん。
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プロフィール

山本 憲資(やまもと・けんすけ)
一橋大学卒業後、電通に入社。その後、コンデナスト・ジャパンに転職し、雑誌『GQ JAPAN』にて編集者に。コンデナスト退社後、株式会社Sumally設立。日本初の世界スタンダードWEBサービス提供を目指す。
Sumally: http://sumally.com

佐渡島 庸平(さどしま・ようへい)
1979年生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年講談社入社。モーニング編集部に所属し、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)などを担当。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。
コルク:http://corkagency.com/
Twitterアカウント:@sadycork

コルク

この連載について

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会社って何だろう?ベンチャーじゃないとできないこと

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コメント

Tomoya1zawa_jp POWを「これから何を買うか」ではなく「何をプレゼントされると嬉しいか」と読んでも面白い> 約3年前 replyretweetfavorite

Kooo_TARO やっぱりPOW,POHって尺度はとっても面白いし、eコマースの未来って感じ。面白いんだろうなあ。https://t.co/c1dmVFYkoE 約3年前 replyretweetfavorite

tomikawan “お金をメリットに出てくれる状況は、雑誌に関してはない。だから、誰もが「やりたい」と思ってくれる、そういうシチュエーションをいかに作るか。そのことを常に考えていました。”/https://t.co/SbeXlrlty0 3年以上前 replyretweetfavorite

tomikawan “みんなが目指すゴールが面白ければ、人は必ず共感して動いてくれる” 3年以上前 replyretweetfavorite