第2章 思春期の脳と身体と心
ガラスの心
思春期は「多感な年ごろ」とよくいわれます。「多感」とは、非常に感じやすく、傷つきやすいという意味。
その言葉どおり、思春期はさまざまな刺激に対して、とても敏感です。
他人のちょっとした言葉や行動に、深く傷ついたり、キレたり、過敏すぎる反応をしたりしてしまいます。
「思春期の心はガラスの心だ」とよく思います。
もろくて壊れやすい。そして、割れてしまった破片の鋭い切っ先が、自分のこともほかの人のことも傷つけてしまう危うさがある。傷つきやすいのと同じくらいに、傷つけやすいところもあるのが特徴です。
しかしこれも、その人の性格的な問題というよりは、思春期だからこそ起きてしまうこと。
キレやすいのも、傷つきやすいのも、不安が強くて心がやたらザワザワ、イライラ、モヤモヤしているのも、体調にいろいろトラブルが出やすいのも、みんな思春期ならではの身体と心の状態がもたらすものなのです。
「どうしてこんなになっちゃうのかわからない」というつらさも、原因を知ってみれば「そういうことだったのか」と思えて、気がラクになります。思春期は期間限定もの、嵐には必ず終わりが来るとわかっているのですから。
思春期の敏感さはホルモン旋風が巻き起こす
思春期とは、だいたい10歳から17、18歳ごろまで。
性ホルモンの分泌が盛んになり、肉体的にも精神的にもいろいろ変化をとげながら成長していきます。
思春期に目に見えてはっきりわかるのが、身体の変化です。
女子は、胸がふくらんでくる、生理が始まる、わき毛や陰毛が生えはじめる、胸やお尻など身体つきが全体にふっくらしていきます。
男子は、声変わりする、ヒゲが生える、わき毛や陰毛が生えはじめる、睾丸が発達し、勃起や夢精が始まります。
これらの変化をもたらすのが性ホルモン。「脳下垂体」から分泌される、男性ホルモンの「テストステロン」、女性ホルモンの「エストロゲン」、黄体ホルモンの働きをもつ「プロゲステロン」などです。
性ホルモンは子どものころから体内にあるのですが、卵巣や精巣の活動が活発になることで思春期に分泌が非常に活発になります。そして性徴がどんどん進んでいくのです。
さらにこれらの性ホルモンは、脳にも影響を及ぼします。
なかでも「扁桃体」を刺激します。扁桃体──ストレスのところで出てきましたね(→P21)。情動・感情の処理、とくに不安や恐怖と関係する部位です。
ホルモンに刺激され、扁桃体は敏感に反応して興奮します。つまり、不安や恐怖の感情がふくらんで、感情爆発を起こしやすくなるのです。
気分が不安定になりやすい理由、不安が強い理由、そしてキレやすい理由は、ホルモンが扁桃体に揺さぶりをかけているところにあるのです。
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