知っていても知らないフリがちょうどいい

包帯パンツの生みの親・野木志郎が、多くの失敗を経験しながらも、細いつながりを手繰りに手繰り寄せ、世界のセレブを魅了するまでにブランドを育て上げたビジネスのしかけを紹介していく『日本の小さなパンツ屋が世界の一流に愛される理由(ワケ)』。今回は相手の懐にスッと入り込み、心をがっちりつかむしかけを紹介!!! 「相手の前知識を入れておくのは当たり前の話。でも専門家ぶったら絶対にアカン!」by 野木志郎

知ったかぶりはほんまに厳禁

西守さんには「知ったかぶりは絶対するな。知っていても、知らないフリで聞くくらいがちょうどいい」とも教わりました。

これは私にだけではなく、会社のいろいろな人にも言っていたのを覚えています。

たとえば、熟練の職人さんなどが集う工場を訪問したり、特定分野のプロと意見を交わす会議のような時。まずは事前に、その分野について自分なりに限界まで勉強する。予習をするのです。そして、自分なりの疑問点をまとめて(質問を用意して)おきます。
そのうえで、あえて「自分はズブの素人だ」という気持ちを持って、あれこれ聞く。

すると、その道に詳しい人が「いい質問だ」と思えるような、的を射 た質問ができると同時に、予習でわからなかった疑問点も解消でき、勉強になる。まさに一石二鳥というわけです。

たとえば、皆さんは陶磁器を焼く「登り窯」というものをご存知でしょうか。
斜面に連続的に複数の窯がつながっている形態の窯で、高温の燃焼ガスを窯内に対流させることにより焼きを行います。
私は千趣会時代にある窯を訪れた時、そこの職人さんに「この窯の雰囲気と、この窯の雰囲気の違いは……」といった質問をしたのを覚えています。

なんのこっちゃですよね。窯業における「雰囲気」とは、窯内部の空気の状態のことを指すのです。温度はもちろんのこと、窯内の(陶磁器に焼き上がる前の)粘土の並べ方によっても対流の具合が変わってくる。それらを総称して「雰囲気」と呼ぶのです。
……ということを、私は事前に西守さんに聞いて、頭に入れておいたのでした。

闇雲に聞いても意味がない

付け焼き刃の勉強であってもいいのです。
ただ、勉強に時間をかければかけただけ、その分野にとって一番のポイントがどこかがわかってきます。

その分野の初心者が最初にぶち当たる壁はどこか? 

そこを質問すれば、その分野のプロは喜々として説明してくれます。
窯の職人さんも、「雰囲気」という言葉を使って質問した私に対して、とても丁寧に説明してくれました。

「専門家ヅラしたって相手は何も嬉しくないぞ。相手の心をくすぐるような質問をどんどんしろ。そうしたらきっとお前のことを気に入ってくれる」

西守さんはそう教えてくれました。
もし何も勉強しないでその場に挑んでいたら、的が外れた質問しかできないばかりか、相手の説明もまったく頭に入ってこないでしょう。
耳から入った専門用語は、そのまま反対側の耳からスルーッとすり抜けていくだけです。まさに素通り、馬の耳に念仏状態です。

しかし、事前の勉強で前もってその用語が一回でも頭を通っていれば、ちゃんと捉えることができます。頭をスルーすることはありません。

「聞く力」という言葉がありますが、なんでもかんでも闇雲 に「それはなんですか?」と聞けばいいというものではないのです。聞くべきポイントというものがあります。
そのポイントを射止められるかどうかは、結局のところ質問者の知識量とセンスにかかってくるわけです。

まず「ドン(首領)」の心をつかむ

心をつかむ方法は、このように相手が喜ぶような良い質問をするのもひとつの手。ただもう一つ私がよくやっていたことがあります。

それは自分がクライアント(発注元)の立場で、発注先の工場なり、集団なり、チームなりと親しくなりたい時、私が若い頃によく意識していたのは、その中で一番偉いと思われる首領(ドン)か、ぺーぺーでも技術レベルが一番高い人の心を、なるべく早くつかむということでした。

工場見学の際、普通はそそくさと移動しながら、あっさり工場見学を終えて打ち合わせになるのですが、私はあえて難しい技術でモノを作っている工程のベテランっぽい人の前で立ち止まり、ずーっとその工程を凝視します。
そして、誰もいなくなって(大抵の人は先に行ってしまうので)、ひとりになった時に質問をするのです。
「ここまでの技術を習得するまで何年かかるんですか?」
その時、「もう中学卒業してからずーっとなんで40年やってるよ」みたいな答えが返ってくると、「よっしゃ」となるわけです。

首領がわかったら、その人にアプローチするのですが、そこには私なりの常套手段があります。
それは自分の失敗談を、先手を打ってさらけ出してしまうこと。

自慢話をして一目置かれるように仕向けるのも手でしょうが、私の場合はその逆なのです。
工場へ行くと、大抵そこの工場長などと昼食に行ったり、夕食に行ったりすることが多いものです。その時に私だったら失敗談を語ります。

たとえば、千趣会時代、はじめての海外出張で上海の印刷工場に行った時の大失敗談などはよくしました。それはこんな話です。

その日は、工場見学の後、酒に強い中国人に付き合い、昼食から紹興酒を一気飲みのオンパレードでベロベロ状態。ホテルの部屋に戻るなりバタンキューでした。
翌日、別の工場の見学に行って、手持ちのインスタントカメラで工場の写真を撮ろうとすると、フィルムが1枚も残ってない! 
48枚撮りが全部撮りきってあるではありませんか! 
いつ何を撮ったのか……、まったく記憶にありません。その日は、仕方なく工場にあったインスタントカメラをもらって、工場内の撮影をしました。

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野木志郎

東京は渋谷で小さな下着メーカーを経営する野木志郎は、「ムレない、ベタつかない、しめつけない」という独特の穿き心地で、世界のセレブを魅了する「包帯パンツ」の生みの親。いまでこそ年間10万枚も売り上げる「包帯パンツ」だが、発売当初は商品力...もっと読む

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