鳩を溺愛する父親
江森康之(以下、江森) ウチの親父、市議会議員をやっていたんですよ。選挙の時期になると街宣車で地元をまわるんだけど、俺が通っていた中学の近くにも来るわけ。俺は友達がいなくて、休み時間も机に座ってるような子どもだったから、外から「江森、江森でございます」「よろしくお願いします!」とか聞こえてくるとすげー恥ずかしいじゃないですか。で、クラスメイトが「おい、江森んちの親父が来たぞ!」とかはしゃいでて、顔とか真っ赤っかになって。
まんしゅうきつこ(以下、まんしゅう) それで康之、家で怒り狂ってたよね。
江森 親父に「ふざけんな! もう学校の近くには来んな!」って。それでも気が済まなかったから、俺、鳩を買ってくれって頼んだんですよ。
まんしゅう 何かね、近所に多彩なコレクターおじさんみたいな人が住んでたんですよ。金魚のランチュウ育てたり、昆虫の標本作ったり、ミニクーパーに乗ってたり。その人がレース鳩をやってて、それに影響されたんだよね。
江森 所ジョージみたいなおじさんだったよね。それで親父がどっかからいい血統のレース鳩を買ってきてくれて、家の向かいにあった親父の会社の屋上に大工を入れてでっかい鳩小屋を作ってくれたんですよ。なのに俺、一週間で飽きちゃって……。
まんしゅう そこからなぜか、お父さんが急速にレース鳩の飼育にハマっていったんですよ。思い通りにならない子どもたちより、従順な鳩がかわいくてしかたなかったんだろうね。
江森 そしたら親父が、鳩フンの影響で「オウム病」にかかって死にかけちゃって。ある日、夜中に「頭痛い! 頭痛い!」って暴れ出して、「頭に何かいるから髪切ってくれ!」とか言ってきたんですよ。それで髪を切ってあげたんだけど、何もあるわけないよね、頭の中なんだから。結局、坊主頭になって入院しちゃった。
まんしゅう 康之はすぐに飽きちゃったくせに、今度はお母さんと一緒に鳩を飛ばしに行ったんですよ。それでお父さんが激怒しちゃって。
江森 いや、なんか……元々は俺の鳩だしさ(笑)。お母さんに「飛ばしに行こうぜ」って誘ったら、「いいね!」って乗って来て。それで家から車で30分くらい行ったところの利根川で鳩を放したら、何かもうてんでバラバラに飛んでっちゃったんです。
まんしゅう お父さんはすぐに鳩小屋から12羽ほどいなくなっていることに気づいて怒り狂ったんだよね。
江森 すごかったよね。いきなり自分の車のドアをバンバン蹴り始めて。次に家の玄関を壊しだして。なんだかしらないけど、怖くてもう見てるしかない。
まんしゅう 目がイッちゃってたもんね。「鳩帰ってこない!」って(笑)。ああなるともう手がつけられない。
夜中の公園で父が息子の友だちと殴り合う
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