書籍化しました!
“よむ”お酒(イースト・プレス)
本連載『パリッコ、スズキナオののんだ? のんだ!』が本になりました。
その名も『“よむ”お酒』。
好評発売中!
ひとり飲みや、晩酌のお伴にぜひどうぞ
「のんだ? のんだ!」始まります
パリッコ(以下パリ) 初めまして、パリッコです。
スズキナオ(以下ナオ) 初めまして、スズキナオです。
パリ お互いにいろいろやっているタイプの人間なんですが、共通しているのは、お酒が好きなことと、お酒や酒場に関する記事を書くライターであること、でしょうか。
ナオ そうですね。ライターと名乗っていいのか。いきなり余談ですが、先日トークイベントで、共演の佐伯誠之助さんに「ナオさんは『酒場ライター』だそうですが、そもそも酒場ライターってなんなんですか?」と聞かれて、わからなかったです。
パリ はは、確かにあんまり聞かない。まぁ、美容に関する文章を書く仕事をしてる人は「美容ライター」だろうし、一度でも酒場のことを記事にする仕事をしたことがあるなら、そういうことでいいんじゃないでしょうか。
ナオ そうですね! 「酒場」にも「ライター」にも自信がなくなってたんですが、間違いじゃない気がしてきました。
パリ で、ふたりで「酒の穴」というユニットをやっているんですよね。活動はただ、酒を飲むだけ。
ナオ 10年くらい前に知り合って、以来何度も一緒に飲ませてもらって、それがいつしか「酒の穴」という飲酒ユニットに発展していった。この「酒の穴」がまた説明に困りますね。
パリ 飲みかたとか、あと、酒場で使う金銭感覚みたいなものが驚くほど共通していて、よく遊ぶようになって、お互いに音楽もやってるので、「そのうち音楽ユニットでもやりたいですね」なんて話してた記憶があります。でも、特に一緒にやりたい、やるべき音楽なんてなかった。
ナオ はは。
パリ ところが、お酒を楽しむことに関しての貪欲さだけはお互いはすごくて、「次はこんな飲み方してみない?」「うおー楽しい!」みたいな。
ナオ いろいろな酒の飲み方を模索する寄合。
パリ ある日、多摩川の河川敷をずっと歩きながら酒を飲んでたんですよね。
ナオ でした。稲田堤という街の多摩川沿いに、「たぬきや」という、酒が飲める川茶屋とでもいうような渋いお店があって、そこが好きで、あんな場所が他にもあるんじゃないかと。下調べもせずに探しに行きましたね。
パリ そうそう、結果、求めているようなお店はなかったんだけど、川辺をただ歩きながら飲んでるだけで楽しかった。
ナオ 何かを探しながら酒を飲むことがすでにじゅうぶん楽しい、しかもこれは新しい飲みかたじゃないかという。
パリ 二子玉川からスタートして、最終的に登戸の駅近くの、景色が開けた場所にたどり着いて、静かな川面に波紋が起きるのを見ながら飲んでたら、すごく楽しくなってきて「あれ? これがすでに活動であり、ユニットなのでは?」と、その時に感じたように記憶しています。
ナオ 波紋なんてそれまでは、現象としては知ってたけど、10秒ぐらいしか見たことなかったですよ。それが一気に、1時間ぐらいみたんじゃないか。
パリ はい。一般平均でいう一生分。
ナオ 致死量。
パリ 致死量の波紋を摂取した結果、おかしくなってしまった。
ナオ 小石を投げる、そこを起点に円が広がっていく「……最高だな!」っつって。
パリ なので、「酒の新しい可能性を追求」なんていうと大げさだけど、とにかくいろんな楽しみかたを試してみたがりのユニットというわけですよね。
ナオ はい!
パリ そんな酒の穴の連載が始まることになりましたと。
ナオ そうなんですよ。
パリ これがそれなんですよね。
ナオ そういうわけです。
ブルーハーツが、裏で……
パリ 「のんだ? のんだ!」っていう。ちょっと変な感じのタイトルで。
ナオ 「リンダリンダ」みたいな感じでね。
パリ 今、頭の中でリンダリンダの替え歌で歌ってみたんですが、「のんだのんだー」のあとの「のんだのんだのんだー」のところが最高でした。
ナオ はは! ほんとっすね。「のんだのんだー! のんだのんだのんだー!」すっげー楽しかったんだろうなっていう。
パリ 歴史に残る飲み会だったんだろうな。
ナオ 他の部分の歌詞と全然関係ないのがまたいい。
パリ サビに入る前に小さく(なんちゃって)とつぶやかないとつじつま合わないですね。
ナオ そうですよ。もしくは(それはそうと)とか。
パリ いろいろ入れられそう。
ナオ (ほんとは飲んでる場合じゃないんだけど)
パリ はは! 明日どうなっても知らねーぞ!
ナオ (健康診断の前日なのだけど)とかね。
パリ (医師からは止められているけど)どんどん暗くなっていく。ハッピーなところだと(生まれて初めて女と)とか。
ナオ はは、いいなー! (初任給でお母さんと)も。
パリ 泣けますね。絶対いいやつ。ただ、もはや前後のつながりとか関係なくなってきた。
ナオ ますます混乱が広がるだけで。
パリ えっと、なんでしたっけ? 連載が始まるんだった!
ナオ そうそう。内容としては、我々がリレー形式でエッセイを書いたり。
パリ うん。お酒に関する。それをふたりでふりかえって、こうやって対談してみたり。
ナオ それを文字データとして入力したり。
パリ 修正入れたりね。
ナオ 公開さえする。
パリ で、これまでの流れを見ていただいてもわかるように、我々、脱線しがちですよ。
ナオ そうですね。脱線の前提となる線路がもう……そもそも線路あるかな?
パリ あってもグニャグニャ。
ナオ はは、そりゃ脱線するよ! っていう。
パリ でも、だからこそ、今までになかった何かを発見できるかもしれない。世の中、グニャグニャじゃない線路のほうが多いんだから。
ナオ そうです! 気づいたら変な場所にいるような、そんな連載になったら楽しいですね。
パリ 決して有用な情報ではない何かを発信していけたら。
ナオ 例えばなんだろう。「酒と金」「酒と健康」「酒とスニーカー」なんでもいいな。
パリ なんでもいいんすよ。逆に「酒とおつまみ」でもいいわけだし。逆というか、素直にか。で、これだけは言っておきたいのは、「何かを押し付けたい」といった方針は一切ないんです!
ナオ そうですね。勝手に楽しんでるだけ。考えてもしょうがないことを考えてみて、楽しいな、ぐらいの。
パリ で、楽しかったよ〜って、言いたいだけなんですよ。例えば、我々でふざけて始めた「チェアリング」があるでしょう。キャンプなどで使う持ち運び椅子を、自然の中や公園など、人の迷惑にならない場所に持って行って、そこで飲むだけ、という遊びなんですけど。これも、流行らせたい気持ちとかはぜんぜんなくて。
ナオ そうなんです。「こんな展開になっていったらおもしろいな」みたいなこともない。「椅子を置いてぼーっと飲んでみたら、おもしろいかもしれないですね」と始めて。
パリ やってみたら想像以上だった。
ナオ こりゃあいい! っつって、のん気にそんな名前をつけてみたら、実際にやってくれる人が現れたりして、むしろ恐縮ですよね。
パリ だから、この「のんのん」にしても、ほんと気軽に読んでほしいですね。
ナオ 略して「のんのん」もね。
パリ 急に略してすみません。
ナオ いえ、心の中では最初から略してました。
パリ 親しみやすいですもんね。
ナオ 親しんでほしいです!
パリ 飲んだ帰りの電車で、その日買った漫画を読んで、別に記憶がなくなるまで飲んだとかじゃないんだけど、翌日、漫画の内容ほとんど覚えてないこととかありません?
ナオ あります。酔った自分が勝手に本を読んで、勝手にしおりを先に進めてるでしょ。その続きから読んでもさっぱりわかんないっつうの!
パリ はは、そうそう。
ナオ 勝手に前に行ってんの。
パリ 「も〜どこから覚えてないかわかんなくなっちゃったじゃん」
ナオ わがままなのは承知だけど、じぶんがどこから覚えてないかだけでもちゃんと覚えていたい。
パリ 脳の機能が縮小されて、究極にぼーっと眺めてるんでしょうね。この連載も、あんな感じで読んでもらえたら嬉しいな。しかしこれ、あるあるみたいに話してますが、酒飲まない人からしたら恐怖でしょうね。
ナオ 確かに、「勝手に進んでいるしおり」ホラーだもんね。見知らぬ人が部屋に……いる!?
パリ その正体が自分自身だってんだから、酒飲みって本当、バカですよ。あ、いい意味でですよ! 酒飲みのそういう行動って。
ナオ うん、自分たちのダメな部分をきっちりと知る。だからこそ人に優しくなれる。人にやさしく。
酒には無限の可能性があるはず!
ナオ 最近の酒はどうですか? どんな酒ですか?
パリ どうもこうも、なんていうか、「どうでもいい酒」って感じです。
ナオ はは! 俺もだなー。つまり、日常的で、平凡な。
パリ こだわりとか、日に日に薄れていく。
ナオ あ、でも先日、取材で、個人的には久しく行ってないような、若くて勢いのある店長が切り盛りしているちょっとおしゃれな居酒屋に行ったんです。「バル」というのかな。そこのチューハイが、氷のかわりに凍ったレモンがたくさん入っているもので。
パリ あ、最近「最強レモンサワー」みたいな名前で出してるお店ありますね。
ナオ それです。「ああ、こういう系ねー」と思って飲んだら、うめーの!
パリ はは!
ナオ 普段、どこで飲んでも美味しいと思って飲んでるレモンサワーだけど、うまいのはうまいね! レモンの味がすごいした。
パリ そうそう、「どうでもいい」って、こだわりを捨てたから自暴自棄にしか飲まないとかじゃなくて、どこで飲んでても楽しいし美味しい。
ナオ まさに!
パリ 言い換えれば「ぜんぶいい酒」って感じです。「悪い酒」ってのはなくなってきたかもな。
ナオ パリッコさんは特にそのへん、柔軟に楽しむ精神があるから、例えば、店で頼んだ800円のチューハイの中身が、あきらかに「氷結」でも怒りませんもんね。
パリ まぁそう。ニヤニヤしちゃうほうですね。「フフフ……このチューハイ、800円もしたのに、氷結そのものの味だ〜」
ナオ 「うーむ…おかわり!」
パリ 「プッ、俺、おかわりしたよ! 1600円だって!」と、なんでも楽しいですよ。まぁ、その店には二度と行かないけれども。
ナオ はは。
パリ 一度でいいおもしろさってある。
ナオ 一度やってみたいことってのもありますね。こんな店で一度飲んでみたいなとか。
パリ 酒場ファンから神格化されているような老舗や行列店に対し、天邪鬼に「自分はいいです」となっちゃうのもよくない。
ナオ 行ってみるとやっぱり美味しいかったり、きちんとそうなった理由がある。
パリ たいがい「また来たいな〜!」って悶絶してますからね、飲みながら。こないだも初めて、神田「まつや」でそば屋飲みをしてきましたよ。もうね「まつや最高〜!!!」
ナオ あー、まつやのそば、好きです! まつやが好きっていうとなんか自分が大人になったような気がするところも含めて好き。
パリ もっと緊張するような店かと思ったら、すごく和やかな雰囲気なんですよね。
ナオ 値段もそれほど高くないっす。
パリ つまり、波紋方面にも、正統方面にも、酒の楽しみは無限に広がってそうというわけで。
ナオ そういうものに少しずつ触れられたらという感じでやっていこうと思います。