ドラゴンボールの悟空に本気の恋心
まんしゅうきつこ(以下、まんしゅう) 私は昔からマンガが大好きで、ひたすら読みふけっているような子どもだったんですよ。それでマンガ家のアシスタントになりたくて、特に『ジョジョの奇妙な冒険』の背景を描いてみたいなと思っていたんですが、荒木飛呂彦先生のところは女性のアシスタントを募集していなくて。それで見つけたのが江川達也先生のところで。
江森康之(以下、江森) 姉ちゃんは昔から絵を描くのが得意だったんですよ。
まんしゅう ポスターコンクールで賞を獲ったこともあるんですよ。それで江川先生のところにも運よく採用されて、先生が用意した特訓用のスペシャルメニューで一週間みっちり教育してもらったら、すぐ『東京大学物語』の背景を描かせてもらえるようになったんです。でも、アシスタントの仕事が忙しすぎて大学を留年しちゃって。1年くらい続けたんですが、結局休ませてもらうことになりました。
江森 親父はめちゃくちゃだったけど、好きなことは自由にやらせてくれたよね。
まんしゅう そこは自由だったよね。でも、高校までは恋愛とバイトだけは絶対禁止で、それがすごくつらかった。ウチのお父さん、セックスのことを「おまんこ」って言うんです(笑)。
江森 ちなみにキスは「肉の舐めっこ」(笑)。
まんしゅう 高1の女子が聞いたらかなりの衝撃ですよ。バイトがしたいだけなのに、「バイトなんかしておまんこ覚えたら大変だ!」って。小遣いやるからバイトだけはするな、とか言われてました。そのせいでまったく恋愛のことがわかんないまま育っちゃったんです。
——まんしゅうさんのブログで、ペンダントロケットに『ドラゴンボール』の孫悟空の絵を入れていたエピソードがありましたが、そのお話も恋愛ベタだったせいなんでしょうか?(笑)
まんしゅう そうだと思います(笑)。当時は本気で悟空に恋してましたから。チチと結婚したときは本気で悔し泣きしましたよ。そうやって恋愛経験を積まずに大学に入っちゃったせいで、変な男に引っかかり続けることになったんだと思う。
江森 ブログにも書いてあったでしょ。自分のことを包丁で切りつけてた彼氏。あの人、見た目はイケメンで、確かハーフで、オアシスとかそういうUKロックのボーカルにいそうなんだけど、超ナルシストで。
ピンチはチャンス - まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど
まんしゅう いっつも鏡見てたよね、あの人。しかも、ボコボコに殴られたり、刃物で脅されたり、常軌を逸していたんだけど、当時は「これが恋愛かあ~」って、ちょっと刺激を感じてたりもしたんですよ。でも、イッた目をしながら刃物で自分を切りつけてる姿を見て、これはさすがにこれはヤバイんじゃないかと冷静になりました。
江森 それで姉ちゃんも気が狂ったふりを始めたんだよね。
まんしゅう その彼は同じ学部の同級生で、同じ授業もあるから学校に行けば必ず会うハメになるんです。でも、卒業もヤバかったので、行かないわけにもいかず……。大学の人間関係をすべてシャットアウトしつつ、学校にも通う方法はないかと考え、思いついたのが変装だったんです。髪を自分でザクザクに切って、ぶ厚いメガネをかけて大学に行ったら、思いのほかうまくいって、まったく気づかれなくて。
江森 何か、変なミノ虫みたいな格好してたよね。姉ちゃんの友だちが見ても気が付かなかったらしいんです。
まんしゅう そうそう。最初は「頭がおかしくなったふりをすれば完全に縁が切れる」っていうだけだったんですけど、それが段々エスカレートしていくうちに気持ちよくなっちゃって……。突然奇声を発したり、夏なのにコート着て「寒い寒い」ってぶつぶつつぶやいたり。完全に猿芝居なんですよ。でも、もうバスでも街中でも家族に対してもお構いなしに演技を続けて、しまいには病院に連れていこうかどうか、家族会議にもなって。
江森 二番目の姉ちゃんに「アーン」つってメシを食わされてたり。親父なんて完全にだまされてたよね。「早く病院に連れてけ!」って怒ってて。
まんしゅう 私としては完全に人間関係を断ちきれるなら、病院に入れてもらいたいくらいだったんです。でも、康之は私の演技を見抜いてたの……?
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