可愛い顔に“陰毛もさ〜っ”男子はギャップ萌え?
溝口彰子(以下、溝口) 田亀先生は立派なおヒゲを蓄えていらっしゃいますが、BLキャラはあくまでも女性が考えるキャラなので、体毛というのは基本的にタブーです。最近は描く人も読者も年齢層が幅広くなってきているので、ヒゲのキャラクターが登場する作品もありますが、まあ珍しいですね。すね毛や胸毛などの体毛も冗談で描かれる程度です。 一方で、体毛は男性性の象徴でもあって、ゲイの方々の世界では、小柄で可愛い感じの人でも、ヒゲだけは生やしてる方も多いですよね。
田亀源五郎(以下、田亀) “童顔だけど毛深い男子”に萌える人もいるもんね。
エスムラルダ(以下、エスム) ギャップ萌えですね(笑)。
左から、溝口彰子さん、田亀源五郎さん、エスムラルダさん。
田亀 ゲイの世界では、ほんとに可愛い子どもみたいな顔をしてるのに“陰毛もさ~っ!”みたいな男子のほうが「アガる」、みたいな話も聞きますし。
エスム (笑)。ジャニーズ系や若い子が好きなゲイの場合は、体毛薄めのスベスベの肌を好む人が多い気がするけど、逆に「毛がないとだめ」っていう人も結構いらっしゃいますよね。
田亀 そうね。これもやっぱりさっきの話とつながっていて面白いのですが、私、「G-men」(1995年に創刊し、2016年休刊)という、ガチムチ・野郎系の雑誌の編集をずっとやっていたのですが、そこにある日、編集部員としてひとりの男性が入ってきたんですね。その方はいわゆるジャニーズ系が好きな「ジャニ専」だったんです。つるつる、ピカピカ、ぴちぴちのきれいな若い男の子が好きで、「クマだのマッチョだのとんでもない!」みたいな人だったんですけど(笑)、「G-men」編集部で働いているうちに、自分は実はクマ専(体毛やヒゲの濃いむっちり体型の男性が好き)だということに気がついてしまって。
一同 え——っ!?
田亀 どうやら、一般社会が美しいとする男性像——ジャニーズ系とか男のモデルさんみたいなもの——を美しいとする、“つるつるピカピカ文化”みたいな規範にずっと縛られてしまっていて、それが当たり前なんだと思い込んでいたんだけど、いざ“もじゃもじゃの男”ばっかり出てくる雑誌で仕事をしていると、「自分はこっちのほうが全然イケる!」ということに気がついたみたいで、すっかりクマ専になった、ということがあったんです(笑)。
溝口 あ~、なるほど!
エスム 自分の本当のセクシャリティに気づいたんですね!
田亀源五郎的宇宙では、“毛深い=カッコいい”
田亀 私のマンガに出てくるキャラクターはだいたい毛むくじゃらなので、それを読んで「初めて毛をエロいと思いました」となる人もいるし、もしくは「自分は毛深いのがすごくコンプレックスだったけど、田亀先生のマンガでは“毛深い=カッコいい”というふうに描かれているから、自分の毛深さもチャームポイントになるんだ、って自信を持つことができました」みたいな声もあります。つまり、世の中に蔓延している価値基準とは違うものが好きな人でも、そこに無意識的にしろ意識的にしろ合わせてしまうことはよくあるんです。
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